いつも心の中に一緒にいる登場人物達なのだ!

味噌汁の鍋を火に掛けると必ず、『白夜行』東野圭吾の主人公の一人・唐沢雪穂を思い出す。
書店員名前
正文館書店知立八ツ田店(愛知) 清水和子さん

 味噌汁の鍋を火に掛けると唐沢雪穂を必ず思い出す。『白夜行東野圭吾(集英社文庫)の主人公の一人だ。噴きこぼれた鍋をどうしたのかが、彼女の正に人生の分かれ道だったんだなあと思いを馳せる。

byakuyakou
集英社文庫 定価:本体1,000円+税


 昭和の出来事を絡めながらの二十年にも及ぶ物語である。ある殺人事件が起こる。犯人は分からない。その後も犯罪が起こる。彼女と桐原亮司の周囲にいる人物達の視点でのみ描かれる。利用できるものはとことん利用し常に先手を打つ。その一直線なさまは信念とも言い換えられるのではないか。人間の正義や道徳とは結局何なのか。二人の内面は一切描写されない。だが、心を打つ。ガスレンジの鍋の前で決断を迫られた小学六年生の雪穂は、どんな表情をしていたのだろう。

 リスベットの事は映画「ドラゴン・タトゥーの女」で先に知った。原作は『ミレニアムスティーグ・ラーソン(ハヤカワ・ミステリ文庫)。

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ハヤカワ・ミステリ文庫 (上)定価:本体800円+税


 当時六巻まで出版されていたが余りの面白さにページを捲る手が本当に止まらず、寝るのが惜しく眠らない体だったら良いのにと本気で願った。ミステリー要素だけではなく豊潤な物語の世界がここに詰まり広がっている。人間の創造性、表現力に驚嘆する。それまで高度の福祉国家と思っていたスウェーデンは、実は女性への暴力や虐待がひどいという事にも驚かされた。小説はそれこそが下地となっている。社会派雑誌「ミレニアム」の発行責任者ミカエルと共に四十年前の失踪事件の調査に乗り出す。ピアスだらけで背中一面には龍の刺青がある彼女は天才ハッカーでもある。女性に暴力を振るう男性を決して許さない。法に委ねる事なく文字通り天誅を下す。彼女に常識は通じない。体の奥底で悪を見抜く人間だと思う。人を求める上では当然なのかもしれないが、同志ともいえるミカエルへの彼女の共感と孤独感には、心に迫るものがある。

 ジョージ・ソーンダーズ『シュワルツさんのために』(『変愛小説集Ⅱ岸本佐知子編(講談社)収録)の「俺」。

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講談社 定価:本体1,900円+税


 得体の知れない商品が出てきたり、ポップでありつつも世紀末感が漂う独特の設定の世界だ。ひどい事を言ってしまった晩に妻が事故死、それ以来呆然と生きている。人生をしくじっても良い行いは出来るのか? 「俺」がとった行動とは……。最後の六行が心に染みていつまでも反芻してしまう。

 

(「きらら」2018年3月号掲載)