思い出の味 ◈ 渡辺 優

第5回
知育
omoide

 私の思い出の味は『ねるねるねるね』です。ご存知ない方にはなにを言っているんだ? と思われてしまいそうですが、『ねるねるねるね』はクラシエフーズ様より販売されている、いわゆる知育菓子です。 ポップなイラストの描かれている外袋を開けると、謎の粉の入ったふたつの袋と謎の形をしたプラスチックの容器が入っています。この容器で粉と水を混ぜ合わせると謎のお菓子『ねるねるねるね』が出来上がります。謎の色と謎の食感でいかにも身体に悪そうですが、合成着色料と保存料は使用されておらず、子供にも安心と今ネットで見て知りました。

「思い出の味」の筆頭に駄菓子を挙げるなんて、よっぽど食に恵まれぬ人生だったのかと思われてしまいそうですが違うんです。『ねるね』が強すぎるのです。私の原風景のひとつにはこれの並んだスーパーのお菓子売り場があり、原記憶のひとつにはこれを買ってくれと両親にねだりまくった思い出があります。

 私が今日までに摂取した『ねるね』の量は軽く三ケタに達すると思います。それくらい作りまくっていると当然『ねるね』の作成にも手馴れていって、容器の限界を超えた水がこぼれないのは表面張力によるなんていう知識だとか、あえて説明書きに逆らった手順で作ってみるという探求心だとか、自分はだいぶこのお菓子に知育されたなあ、とあらためて思います(あえて粉のままいただく、という食べ方を試みた時期もあったのですが、そういうことは止めてくださいと外袋に書いてありました)。

 ネット上では、「自分で練って食べることが楽しいのであって味はそれほど美味しくない」というレビューもお見掛けしたのですが、なにを言っているんだ。味も最高に美味しいです。甘酸っぱくてしゅわしゅわしていて未来っぽい。トッピングのザリザリしたキャンディやラムネもナイス。私はこれを物心ついたときから食べ続け、ひかないでほしいのですけれど今もたまに食べています。

 

(「STORY BOX」2018年3月号掲載)

渡辺 優(わたなべ・ゆう)

1987年宮城県生まれ。2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『自由なサメと人間たちの夢』がある。