今月のイチオシ本 【エンタメ小説】 吉田伸子

『そして、バトンは渡された』
瀬尾まいこ
文藝春秋 本体1,600円+税

 なんてチャーミングで素晴らしい物語なんだろう! 本書には、生きていくうえで大事なことがぎゅっと詰まっている。心の奥に刻んで覚えておきたいことが、そこここにちりばめられている。

 物語の主人公は、高校生の優子だ。優子は生まれてから苗字が4回変わっている。幼い時に母を亡くした優子は、父親の再婚によって新しい母親ができたのだが、その父親が再び離婚することになって、父親とではなく継母と暮らすことを選択したため継母の苗字に変わり(田中)、その継母が再婚したので苗字が変わり(泉ヶ原)、さらにさらにその継母が再々婚したために現在の苗字(森宮)に。つまり、優子には、産みの母と育ての母とで、母親が二人、実の父と育ての父とで、父親が三人いるのだ。しかもしかも、継母は再々婚相手とも離婚して家を出てしまったため、今現在優子は継父と二人暮らし。

 こういう込み入った家族関係を背負ったキャラというのは、どこか昏さを秘めることが多いのだが、優子はさにあらず。自分の名前は良い名前だと思っているけれど、「最大の長所は、どんな苗字ともしっくりくるところだ」と思っている。要するに、屈託がない。すくすくと伸びやかなのである。ではなぜ、優子がこんなにも伸びやかに育っているのか。そこが本書の読みどころだ。

 義理親ズ(と私が名付けた)はみんないいのだけど、その中心にいるのが継母の梨花で、この梨花がね、いいんです。森宮は優子に言う。「梨花が言ってた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって」「自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって」この梨花の言葉が、本当に素晴らしい。優子との暮らしを「自分以外の未来に手が触れられる毎日」と言う森宮も素晴らしい。

 本書は、瀬尾さんにしか書けない"親子小説"だ。大事なテーマを、軽やかにユーモラスに、そして、そっと丁寧に語りかけてくれている。

 

(「STORY BOX」2018年4月号掲載)

(文/吉田伸子)