今月のイチオシ本【警察小説】香山二三郎

『刑事の血筋』
三羽省吾
小学館 本体1,500円+税

 犯罪捜査に警察官の家族劇を絡ませた作品は珍しくない。本書もまたその系統に属する一冊だが、他と味わいを異にするのは「本物の刑事の息子が綴る」警察小説であること。警官を父に持つ著者が自らの親子関係を投影させたとおぼしき"警察家族小説"なのである。

 高岡守は瀬戸内海に面した人口三十数万人の津之神市西署強行盗犯係の刑事。祖父から三代続く警官一家で、父・敬一郎は一五年前、病で亡くなっている。自称「小悪を大悪の捕獲に利用する」不良警官だが、その実「公僕としての血を継承した者には、常在戦場の覚悟があって然るべきだと考えている」硬派の一面も持っている。

 実は兄の剣も警察庁に勤めるキャリア警官なのだが、守は「警察官の血を継承しながら、どこか計算高く、自分が最も優位になるべく立ち振る舞う」彼を苦手にし、兄弟関係は冷え切っていた。 物語は、守と同僚の久隅が一ヶ月前に公務執行妨害で逮捕したもののその後釈放した男、木村正が市内の川で死体となって発見されたところから始まる。死因ははっきりしなかったが、守は他殺を主張、殺人死体遺棄事件として帳場が立つことに。木村は県内全域を牛耳る暴力団志道会の下っ端だったらしいが、なかなか素性がつかめず、捜査は難航する。

 そんなとき、兄・剣が県警刑事企画課に異動してくる。警察庁はこの数年、県警の経理面がキレイすぎることに不審を抱いていた。彼はその秘密を探るべく内偵を命じられていたが、もうひとつ個人的な捜査も進めようとしていた……。

 別々の捜査に携わる兄弟が不器用ながらも協力し合うようになるくだりはお約束の展開だが、人情小説にも長けた著者は個性豊かな脇役を配してじっくり読ませる。捜査小説としても、暴力団の脅威を絡ませつつ現代悲劇を浮き彫りにしていく社会派タッチが光る。舞台となる津之神市が映画『仁義なき戦い』の舞台、呉市を髣髴させるとなればなおさらだ。

 多彩な作風で活躍してきた著者だが、欧米の警察家族小説に比肩する骨太な作品で見事に新境地をひらいた。

 

(「STORY BOX」2018年4月号掲載)

(文/香山二三郎)