今月のイチオシ本【デビュー小説】大森 望

『ナイス・エイジ』
鴻池留衣
新潮社 本体1,600円+税

 時は2016年。AV女優をしている29歳の絵里は、インターネット匿名掲示板のオカルト板に立てられた「時間旅行者をもてなすスレ」のオフ会に参加する。スレッドの中心テーマは、2112年から来たという自称・未来人をめぐる議論。2009年に掲示板に降臨し、ネット民の質問に答えるかたちで発言しはじめたこの「2112」氏は、東日本大震災とそれに続く原発事故、第二次安倍政権の成立を予言したとも解釈できる書き込みを残し、のちにそれが発掘されてセンセーションを巻き起こした。はたして彼は本物なのか? ネット民の熱烈な要望に応えるように、2112と名乗る人物は2011年にも出現したが、他人のなりすましの可能性も否定できない。そして2016年、またまた降臨した2112氏は、トランプ大統領誕生を予見したかのような投稿を残す。というわけでスレッドは大いに賑わい、オフ会にも人が集まる。そこで絵里が知り合った男は、自分がくだんの2112だと名乗り、絵里の孫だと主張して、彼女の家に居候することに。その正体を見極められない絵里は、「アキエ」の名で、自称未来人の日常を掲示板に投稿しはじめる……。

 なんとも素っ頓狂なドタバタコメディの趣だが、作中の未来人騒動は、実際に起きた出来事が下敷き(2062年から来たという固定ハンドルが、2010年以降、2ちゃんねるに複数回あらわれ、スレ住民の質問に答え、いくつかの予言を的中させた)。現実だと、「未来人なんているわけないし」という反応がふつうだろうが、同じネタでも小説の中だと事実として描きうる。どちらに転ぶかわからない、そのあたりのバランスが絶妙で、話の展開から目が離せない。ちなみに作中の未来人によると、新元号はnice ageを意味する漢字2文字だそうです。

 著者は、1987年、埼玉県川口市生まれ、東京都在住。慶應義塾大学文学部中退。2016年に、第48回新潮新人賞を射止めてデビューした。受賞作の「二人組み」は、イタい男子中学生と同級生女子の微妙な関係を描く中編で、本書に併録されている。

 

(「STORY BOX」2018年4月号掲載)

(文/大森 望)