今月のイチオシ本【デビュー小説】大森 望

『隣のずこずこ』
柿村将彦
新潮社 本体1,500円+税

 日本ファンタジーノベル大賞と言えば、酒見賢一、佐藤亜紀、畠中恵、越谷オサム、仁木英之、遠田潤子など数々のユニークな才能を輩出した長編新人賞。2013年の第25回でいったん休止していたが、後援だった新潮社が主催に回り、昨年ついに復活した。その最初の受賞作となった柿村将彦『隣のずこずこ』は、3人の選考委員(この賞出身の恩田陸、森見登美彦と、漫画家の萩尾望都)がこぞって絶賛した、すばらしく個性的なモダン・ファンタジーだ。

 舞台は西日本(たぶん兵庫県西部あたり)の片田舎、矢喜原町。かつて近隣一帯を焼け野原に変えたという伝説の"権三郎狸"が町にやってきた──という噂から、物語が動き出す。語り手の住谷はじめは、矢喜原中学の3年生(女子)。町に一軒しかない旅館に珍客を訪ねると、そこには信楽焼の置物そっくりの巨大な狸が……。同伴者のあかりによれば、伝説のとおり、狸は1ヶ月滞在したあとで町を滅ぼし、全住民を丸呑みにするという。あかりいわく、「ほんとにごめんなさい。でも、もう来ちゃったから、どうしようもないの。気を落とさないで」

 二本足でズコズコ歩く狸が現代の日常と同居する「となりのトトロ」風のほのぼのファンタジーかと思いきや、あかりの予告をきっかけに、俄然、不穏な空気が漂いはじめる。といっても、なにしろ相手は狸なので、運命から逃れるため必死に抵抗するような(『リング』的な)展開にはならない。権三郎狸という不条理をあっけらかんと受け入れたまま、物語は摩訶不思議な終末に向かってじりじりと進んでゆく。1学年に5人しかいない同級生との交友、キャラの立った家族との関係……。

 災害による喪失と忘却を描く3・11小説とも読めるが、中心に狸を置くことで、なんとも言えない独特の味わいが広がる。現在形を多用した饒舌な語りと胸に迫る抒情、笑いと哀しみ、昔話の懐かしさとすぐれた今日性──相反する要素を平然と呑み込む、器の大きさが特徴だ。

 著者は1994年、兵庫県尼崎市生まれ。大谷大学文学部卒。今は東京在住。

 

(「STORY BOX」2018年5月号掲載)

(文/大森 望)