今月のイチオシ本【歴史・時代小説】

『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』
宮部みゆき
角川書店 本体1,800円+税

 神田の袋物屋・三島屋で、主人・伊兵衛の姪のおちかが、客から奇怪な話を聞く「変わり百物語」を続ける宮部みゆきのライフワーク〈三島屋変調百物語〉シリーズの第五弾『あやかし草紙』は、第一期の完結篇となる節目の物語である。

 第一話「開けずの間」は、おぞましい神が巻き起こす悲劇が語られる。子供を婚家に奪われ出戻ってきたおゆうは、子供との再会を願い塩断ちをする。すると供物を捧げれば必ず願いを叶える「行き逢い神」が現れる。おゆうの家族は、供物にしてはいけないものを差し出しては、願いを叶えてもらうようになる。

 第二話「だんまり姫」は、化け物を呼び出す「もんも声」を持つおせいの一代記である。おせいは、紆余曲折を経て、しゃべることができない某大名の姫の世話係になる。そんなおせいの前に、お家騒動の芽を摘むため毒殺された大名の妾腹の息子・一国様の幽霊が現れる。

 奇妙な面を守っている屋敷で奉公することになった少女が不思議な体験をする第三話「面の家」は、振り袖火事、吉原百人斬りなど江戸を騒がせた大事件の陰に超自然の要素があったとするなど、スケールが大きくなっている。百両という破格の報酬である本の筆写を請け負った浪人が、仕事を終えた後に自分は三年後に死ぬと口にする第四話の表題作は、浪人が体験した怪異が徐々に明らかになるミステリータッチの展開になっている。

 外から見え難いため、家庭の中で惨劇が続く「開けずの間」は、家族を洗脳した犯人が、互いに暴力を振るわせ何人も死に至らしめた事件を彷彿させる。また「だんまり姫」は、大人の抑圧によって子供たちの声が奪われている現状の暗喩のように思えた。このように本書で描かれる怪奇現象は、いつの時代も変わらない社会の矛盾、人の心の奥底に潜む闇を糧にして成長している。それだけに、余計に恐ろしさが身にしみるはずだ。

 ただ、おちかに大きな転機が訪れる最終の第五話「金目の猫」には、ささやかな希望も置かれている。ここには、今の社会がもっとよくなって欲しいとの祈りが込められているようにも感じられた。

 

〈「STORY BOX」2018年7月号掲載〉
(文/末國善己)