映像クリエイターの制作ノート 「ミックス。」 古沢良太

連載回数
第54回
作家写真
古沢さん
作家名(読みがな付き)
古沢良太(こさわりょうた)
作家プロフィール

脚本家。1973年神奈川県生まれ。2002年にテレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞受賞作『アシ!』で脚本家デビュー。代表作に『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)、『キサラギ』(07年)、フジテレビ系で放映された『リーガルハイ』シリーズなど。『探偵はBARにいる3』が12月に公開予定。

 子どもの頃、近所の児童館に卓球台があって、友達と入り浸っていました。同じ頃、サッカーもやっていたのですが、チームプレーにはどうも馴染めませんでした。その点、卓球は基本的には個人競技で、相手と心理を読み合う面白さがあり、僕には合っていたようです。

 また、卓球は一流選手でも体格は普通の人とそう変わらず、俳優が演じやすい。いつか卓球をモチーフにした作品を書きたいと考えていました。そんなとき、テレビ中継で見たのが卓球の男女混合(ミックス)。「これはラブコメをやるための競技だ」と直感し、スポ根ものと恋愛コメディを混ぜ合わせた『ミックス。』の企画が思い浮かんだんです。

 いつもは俳優のイメージに合わせて脚本を書く・あて書き・をすることはないんですが、今回はロマンティックコメディということで、僕が脚本を書いた『リーガルハイ』(フジテレビ系)でコメディエンヌとしての才能を見せていた新垣結衣さんがヒロインを演じてくれるといいなと思いました。新垣さんの卓球姿を見てみたいという個人的な気持ちもありました(笑)。

 新垣さん、瑛太さんのダブル主演作として決まり、サブキャラクターも驚くほど豪華な配役になりました。「この役の台詞を増やせないか。蒼井優が出てくれそうなんだけど」とそんな感じでプロデューサーから度々頼まれ、少しずつ直しながら、1年がかりで書き上げた脚本です。

 脚本家の仕事は、プロデューサーから原作を手渡されて脚色するケース、ゼロから脚本を書き上げていくケースがあり、それぞれ異なる面白さと難しさがあります。ハリウッドでは脚色と脚本は別の職業となっていますが、今の日本ではまず脚色の仕事で実績を残していかないと脚本家として続けていくことは難しいでしょうね。

 原作ものを脚色する場合は、自分の個性は殺して、原作に殉じるくらいの覚悟でやります。また、自分にはない新しい世界観を取り込むことで、物書きとして自分をスキルアップさせることができる。その一方、脚色の仕事を続けていると「この場面はこういう風に展開すればいいのに」と感じることもあります。そんなときは、自分でゼロから書き上げるオリジナルをやりたくなるわけです。今の僕はオリジナルでやりたい企画が山積みになっている状態です。

 オリジナルの脚本を書く作業は、砂漠の真ん中を手探りで進んでいく感じで、どっちに進んでも正解も不正解もありません。出口が見えるまで、何度も書き直します。今回の『ミックス。』も主人公の多満子と萩原が最後の決断をするまで僕自身が試行錯誤を重ねることで、スポ根とロマコメとのバランスがうまくとれた作品になったように思います。

 

日常を大切にし、感情の動きに注意する

 

 脚本家になる前は漫画家を目指していました。中学生のときに藤子不二雄Aさんの『まんが道』を読んで、創作の世界に魅了されたんです。漫画家の中でも僕が最も尊敬するのは藤子・F・不二雄さん。質・量ともに優れた本当の天才です。藤子・Fさんは毎朝決まった時間にスタジオに出勤し、毎日漫画を描き続けた。そんな規則正しい生活が続けられることに憧れます。

 何でもない日常を大切にするということで言えば、自分が普段どんなことで感動し、涙を流し、怒りを覚えるかに注意しています。映画やドラマを観ているときも、作者が特に意図していない何でもないシーンに感動することがあるんですが、そんなときは「これ、いただき! パクッても怒られないな」と嬉しくなりますね(笑)。

 キャラクターを考える際はスケッチブックにイメージを描き、そのキャラクターが口にしそうな台詞をメモ書きするようにしています。キャラクターが固まれば、物語も自然と動き出し、キャラクターの口から自然と台詞が流れ出てきます。筆が滑っていく──そんな感覚で書けた脚本が僕はベストだと思うんです。

(構成/長野辰次)