◎編集者コラム◎

『極夜の警官』ラグナル・ヨナソン 訳/吉田 薫


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 熱狂冷めやらぬ2018FIFAワールドカップで、新たな伝説が生まれました。国の人口35万人の1割がロシアに観戦に行ったとか、テレビ視聴率が99.6%だったとか……「ヴァイキング・クラップ」をスタジアムに轟かせた国、アイスランド。本書『極夜の警官』は、アイスランド北端、北極圏近くに位置する実在の町シグルフィヨルズルが舞台です。

 フィヨルドによって隔絶された町の人口は約1200人(2011年)。緯度が高いため、冬は太陽が昇らない「極夜」を迎えます。そんな暗く寒い季節に向かうある日、小さな町を揺るがす事件が起きるのです。

 アリ=ソウルは、シグルフィヨルズルに二人しかいない警官の一人。インフルエンザで寝込んでいた早朝、1本の電話に起こされます。電話の主はもう一人の警官で署長のヘルヨウルフルの妻、ヘレン。曰く、夫が仕事に出たまま帰ってこないとのこと。不安を覚えたアリ=ソウルが一帯を捜索すると、町はずれの空き家で倒れているヘルヨウルフルを発見。彼は銃撃され、瀕死の重傷を負っていました。

 犯人は誰か? 捜査にあたるうち、事件現場の空き家には忌まわしい過去があること、現在ではドラッグ売買の温床になっていたことが明らかに。さらには政治家の関与が疑われ、アリ=ソウルは関係者への聞き込みにあたります。が、その情報がネットニュースに流れたことで、さらなる悲劇が町を襲い……。

 一つの事件を契機に、次々と事実が明らかになるスリリングな展開。読了後は、ぜひ2回目に挑戦していただきたい。著者の張り巡らせた緻密な物語の網を感じられるはず。さらに、ミステリとしての面白さはもちろん、本書の読みどころはアリ=ソウルをはじめとする登場人物の人間臭い描写にもあります。

 重傷のヘルヨウルフルに母を亡くした記憶を重ねたり、当番を交代していなければ自分が襲われていた可能性に恐怖を感じたり、同時に署長への出世がよぎって自己嫌悪を覚えたり。正義感と、苦悩や迷いを持ち合わせた人間像が印象的です。

 著者のラグナル・ヨナソンは弁護士やテレビキャスターの経験もあり、「アイスランドのクリスティ」の異名をとる実力派。その経験が、リアルな人間像を作り上げているのかもしれません。ちなみに、ヨナソンさんもワールドカップは3戦ともロシアで観戦したとか。濃厚な人間関係が生み出す物語は、日本社会に通ずるところも。アイスランドってどんな国? 興味を持たれた方はぜひこの機会にご一読を!

──『極夜の警官』担当者より

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