◎編集者コラム◎『フィッターXの異常な愛情』蛭田亜紗子

 ◎編集者コラム◎

『フィッターXの異常な愛情』蛭田亜紗子


フィッターXの異常な愛情

 □メイクを落とさずに寝てしまうことがある
□3年以上、下着のサイズ測定をしていない
□脚を組むくせがある
□スポーツジムが3か月も続かない
□10代の頃から肩凝りに悩まされている
□生理不順
□主食はラーメンとビール
□夕食はいつも夜8時以降
□20歳の頃と比べて5キロ以上太った
□少なくとも2年は恋人がいない
□おなかに手を当てると冷たい

 ……さて、貴女はいくつ当てはまりましたか? 3つ以上チェックが入った貴女、もしかしたら、ランジェリーがおろそかになっているかもしれません。洋服と違って、ふだんは人に見られることの少ないランジェリーは、忙しかったりだらしない生活を送っていると、ついつい気配りを忘れてしまいがちな存在。

 そんな"ランジェリー"が主役のラブコメディが、『フィッターXの異常な愛情』です。広告代理店に勤めるヒロインの國枝颯子は、最近、ちょっと枯れ気味な32歳。飲み会でしこたま飲んだ翌日、うっかりノーブラで出社してしまい、慌てて駆け込んだランジェリーショップ「Toujours Ensemble」で男性のフィッター・伊佐治耀に出会います。

 伊佐治はフィッティングをしただけで、生活習慣や生き方(の問題点)をズバズバと言い当ててくる敏腕フィッターですが、彼は「男性がやっていたら、ありえない職業はなんだろう?」という蛭田亜紗子さんとの喫茶店での雑談の中から誕生したキャラクターです。

"女であること"を持て余している後輩の百田馨、旬を過ぎたスキャンダル女優の本城夕妃、女装の趣味があるクライアントの大狼社長、出産後のセックスレスに悩む同期の美鈴……。8編の物語を通して、颯子だけでなく周りのさまざまな年齢、立場の人々が伊佐治のランジェリーの魔法で変わっていく様子を、ぜひ見守っていただけたらと思います。

 本編はもちろんのこと、この文庫の読みどころの一つが、モデル・女優として大活躍されている石田ニコルさんによる解説です。ワコール「AMPHI」とのコラボや、ドラマ「アンダーウェア」出演など、ランジェリーにまつわる仕事をたくさんされていて、ランジェリーへの強い思いを持っていらっしゃるニコルさん。思い切って依頼したところ、二つ返事で引き受けてくださいました。「気に入ったフレーズに印をつけながら読んでいたら、本が真っ黒になっちゃった」とおっしゃっていたのが印象的でした。

 そんな貴重なご縁から、三省堂書店神保町本店にて、石田ニコルさんと蛭田亜紗子さんのトークイベントも実現しました。モデルさんならではのランジェリーの選び方や着こなしのテクニック、そしてアラサー世代の女性なら誰しも気になる恋愛、結婚について……。当日の様子は小説丸でもレポートしますので、ぜひご覧いただけたら幸いです。

 そして、この美しいランジェリーの世界を装画で表現してくださったのは、女性誌や広告を中心に活躍されているイラストレーターの大森とこさん。"ランジェリーを身につけた女性"という別バージョンも描いていただいて検討を重ねましたが、生身のセクシーさは表に出さない方がいいと判断して、ランジェリーはフィッティングルームのトルソーに着せることにしました。小物の一つ一つや家具の脚にいたるまで、ラフでのやりとりを重ねた結果、見る人皆が口を揃えて「かわいい!」と言ってくださる本に仕上がりました。

 「理想のバストの形はひとつではありません。万人に合うブラなんて存在しないんです。女性は気持ちもからだも一人ひとり違うんですから。どうぞこころゆくまでご覧になって、悩んで、自分なりの最高の一枚を見つけてください」――ときに辛口ですが、徹底的に女性に寄り添ってくれる伊佐治の言葉には、ハッとさせられることばかり。仕事や人間関係に悩んでいる方も、年齢とともに体型が変わってきたのが気になる方も、最近なにも楽しいことがないという方も。『フィッターXの異常な愛情』を読んで、自分だけのお気に入りの一枚を見つけて、ちょっとだけ笑顔になっていただけたら嬉しいです。

──『フィッターXの異常な愛情』担当者より

syoei

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