◎編集者コラム◎

『脱藩さむらい』金子成人


脱藩さむらい 金子成人
 2018年春、浜田城跡を取材。天然の要塞ともいえる浜田の複雑な地形が、作品をよりスリリングなものにしています。


 デビュー作にして10万部超えとなった「付添い屋・六平太」の著者が、満を持して挑んだ書き下ろし時代小説の新シリーズです。

 石見国(島根県)浜田藩(作中では浜岡藩)の武士を主人公とした時代小説を構想いただいたのは、かれこれ二年ほど前になります。昨年春に浜田取材を敢行し、プロット改稿、原稿改稿を重ね、ようやく日の目を見ました。

──日本海に面した浜岡藩は、藩主が老中職にありながら幕府に抜け荷を疑われ、お取りつぶしの危機にあった。にもかかわらず密貿易で私腹を肥やそうとしている藩の上層部に反旗を翻したのが、主人公・香坂又十郞の義弟であった。参勤交代中で江戸に向かう殿に直訴し、獅子身中の虫を排除しようとするが、相手も黙って手をこまねいてはいない。剣の達人である香坂を追っ手として差し向けることに。一度も浜岡を出たことのなかった又十郞は、義弟・兵藤数馬を追い、山陽道、大坂を経て、江戸に入る。故郷に戻りたくば、義弟を討たねばならない──。

 釣りと妻・万寿栄を愛し、静かに暮らしてきた又十郞の運命はいかに?

 これ以上ネタばらしはできませんが、又十郞には義弟追討以外にも過酷な任務が待ち受けているようです。剣の達人であるがために、背負い込まされてしまった宿命ともいえます。

 数々の人情ドラマを描いてきた金子さんの筆の冴えは素晴らしく、又十郎の心情と彼に関わる人々との心の交流を読んでいると、自然と涙が出てきました。過酷な環境に置かれても、人は誇らしく生きることができることを教えてくれる一冊だと思います。

 ベストセラーとなっている「付添い屋・六平太」シリーズを離れ、新シリーズを立ち上げることに編集者として不安はありましたが、本書が完成したいま、チャレンジして良かったと心から思っています。『脱藩さむらい』は、金子成人作品は、もっともっと面白くなります。2019年1月のシリーズ第二巻刊行をどうぞお楽しみに。

──『脱藩さむらい』担当者より
 
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