◎編集者コラム◎

『かぞくいろ ―RAILWAYS わたしたちの出発― 』大石直紀 脚本/吉田康弘


かぞくいろ


 果てしなく続く青く澄み切った世界。太陽の光がキラキラ乱反射するところが海と空の境目。そんな風景を正面に見ながら列車はひたすら海岸線を疾走する。電車に揺られ、延々と続く水平線を無心に目で追う。まさに絶景。飛行機と新幹線を乗り継いでやっとたどり着いた鹿児島でこんなご褒美が待っていた。日々の疲れを忘れ、心も体もほぐれてきた私はしばしまどろむ……。

「……すみません、小説の打ち合わせをさせていただいていいですか?」松竹のプロデューサーAさんに言われて我に返る。現実逃避している場合じゃない。仕事で来たんだった。

 東京・千代田区のコンクリート打ちっ放しのオフィスに戻り、肥薩おれんじ鉄道のホームページ(https://www.hs-orange.com/)を開く。あのきらめく海に思いを馳せ、今度はプライベートで訪れたいと強く思う。

 11月30日公開の映画『かぞくいろ ーRAILWAYS わたしたちの出発―』は、そんな肥薩おれんじ鉄道が舞台。スクリーンに映し出される情景の美しさももちろんだが、家族再生の物語に心が震える。主演は有村架純さんと國村隼さん。夫を亡くし、骨壺を抱え小学生の息子の手を引き薩摩の義父のもとを訪れる訳ありなシングルマザーを体当たりで演じる有村さんと、そんな有村さんを温かく見守る、亡くなった息子の父親役の國村さん。淡々とした二人の演技と、いままでにない新しい家族の形は、観ている者の心を打つ。血のつながりだけではない、思いがけない縁がきっかけで出会ってしまった人とも、かけがえのない絆が結べると教えてくれる。

 映画は3度観た。どんなに堪えても毎回涙する。今回ご紹介する小学館文庫『かぞくいろ ーRAILWAYS わたしたちの出発―』の特筆すべきところは、映画を観ているはずの私が何度読んでも、新たな発見があり、切なさがこみ上げる。映画脚本の吉田康弘さんのお力と、映像用に作った物語を小説の世界に落とし込む大石直紀さんの筆力があってこそ。

 小説として今年最高の1冊だと、力強くおすすめしたい。

──『かぞくいろ ―RAILWAYS わたしたちの出発― 』担当者より
 
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