◎編集者コラム◎ 『絵草紙屋万葉堂 揚げ雲雀』篠 綾子

 ◎編集者コラム◎

『絵草紙屋万葉堂 揚げ雲雀』篠 綾子


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「絵草紙屋万葉堂」シリーズも、本シリーズで3作目となりました。絵草紙屋の売り上げが芳しくないなか、瓦版(読売)作成・販売を始めた万葉堂。今回、さつきと兄の喜重郎が考えたのが出版社とのいわば「タイアップ」記事。喜重郎の尽力により、蔦屋重三郎の耕書堂が売り出した黄表紙を紹介していくというものでした。最初に取り上げたのは、さつきの親友およねが書いた『他不知思染井(ひとしらずおもいそめい)』です。喜重郎は、和歌仕立てにした見出しを考えました。「今の世は紫ならぬ黒鳶の 式部や江戸の深川小町」。3号目となるこの読売は、ヒット作となりました。続いて取り上げたのが、医者の桂川甫周の弟である竹杖為軽(たけつえのすがる)作『従夫依来記(それからいらいき)』、そして、およねの兄・山東京伝による『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』を読売にします。黄表紙は、この頃に流行った挿し絵入りの読みものです。登場する3作品はいずれも実在のもので、挿し絵も当時の人気の絵師が描いており、『他不知思染井』は喜多川歌麿が担当していました。江戸時代のエンタメ業界も活気があったことがわかります。読売はいずれもよく売れ、万葉堂の経営は明るいものになります。

 さて、そんななか50代半ばの男が万葉堂を訪ねてきます。男は、仙海屋の晴右衛門といい、行方を眩ましたままの駒三が自分の兄ではないかと思って来たのだと言います。その後、時々来るようになる晴右衛門と次第に打ち解けるようになったさつきたちは、晴右衛門の提案で盗賊団「蛇の目」を取り上げることにします。それは、今は義賊といわれている「蛇の目」の昔の所業を書き残すというもので好評を得ます。さらに今度は、「蛇の目」一味の集合する情報が、特定の読売に出ているのではということで、それをさつきは読み解くことになりました。果たして、その情報は「蛇の目」一味を捕まえることに貢献できるのでしょうか。一度覚えたことを忘れないという人並み外れた暗記力をもつさつきは、最後の最後でその力を発揮します。

 そして、今回さつきの出生の秘密も明らかになります。さつきと伝蔵、およねと喜重郎それぞれの恋の行方にも、注目です。

 苦い経験も積みながら少しずつ成長していく、さつきのこれからにご注目下さい。

──『絵草紙屋万葉堂 揚げ雲雀』担当者より

syoei

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