◎編集者コラム◎ 『見えない目撃者』豊田美加

 ◎編集者コラム◎

『見えない目撃者』豊田美加


見えない目撃者

 非常に個人的な話ですみません。伊坂幸太郎さんの傑作ミステリー小説を原作とした『重力ピエロ』、そしてこれまた傑作である五十嵐大介さんの漫画を原作とした『リトル・フォレスト』(夏編・秋編と、冬編・春編)。この二つの映画が、私は大大大好きです。

「春が二階から落ちてきた。」──このあまりにも印象的な一行から始まる小説『重力ピエロ』で描かれる兄弟の弟である"春"を演じたのは、岡田将生さん。当時、『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』などに出演して、人気急上昇中でした。かく言う私も大ファンだったわけですが、『重力ピエロ』での美しくも屈折を抱えた春役を見て胸が揺さぶられ、もう、これは早くも岡田さんの代表作になるに違いない、と勝手に確信したのです。

 そして、『リトル・フォレスト』です。東北の小さな集落に一人で暮らし、大自然の恵みを享受しながらひたすら三度の食事を作り、食べるヒロインを演じたのは、橋本愛さん。始終ムッツリと無表情で黙々と作業をする姿はある意味ストイックで、セリフは極めて少ない。ヒロインとしては非常に特殊であるにも関わらず、この橋本さんの、美しいこと、美しいこと……。ヒット映画に多数出演されている橋本さんですが、個人的には、今まで演じられてきたたくさんの役の中で、いちばん橋本さんの魅力があふれているのが、この寡黙な"いち子"というヒロインだと思っています。

 この素晴らしい二つの作品を撮った森淳一監督の新作が、9月20日公開のサスペンス映画『見えない目撃者』です。自らの過失で交通事故を起こし、視力と最愛の弟を失うが、ある事件を"目撃"したことから真相を追い始める──そんな難役に挑むのは、吉岡里帆さん。いままで演じてきた役とは打って変わって、そのチャーミングな笑顔と明るさを封印し、葛藤を抱えつつも勇敢に事件に立ち向かうクールなヒロインを熱演しています。

 森監督の映画を観ていつも感じるのは、複雑な感情や屈折を抱えながらもしっかりと前を向いて生きていく人間の強さと美しさ、そして、そういう役を演じることによって新たな魅力を放つ役者の強さと美しさです。

 今回、映画公開に先がけて刊行される小説版『見えない目撃者』。読み始めると止まらないノンストップ・スリラー、ぜひ五感を研ぎ澄ませて楽しんでいただけたらと思います。

──『見えない目撃者』担当者より
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