◎編集者コラム◎ 『泣き終わったらごはんにしよう』武内昌美

◎編集者コラム◎

『泣き終わったらごはんにしよう』武内昌美


泣き終わったらごはんにしよう

人生、泣きたい日もある。涙を流すだけでは足りなくて、声を上げて、拳を握りしめて、全身をふるわせて泣いて泣いて泣き終わって、ふっと息をついたとき──お腹が空いていることに気づいたり、しませんか。

泣くって、けっこうエネルギーを使うもの。そんなときに口にする、あたたかくて優しい一皿は、きっと忘れられないものになるはず。本書に収録されている八作品に登場する料理はいずれも、そんな印象的なものばかりです。

主人公の中原温人は社会人四年目。少女マンガの編集者として日々奔走しつつ、合間を縫っては料理を作るのが趣味でもあります。なぜなら、恋人のたんぽぽさんに美味しいものを食べさせてあげたいから。彼女と美味しい食事をするのが、温人にとって、何よりも楽しみなのです。そんな彼が作る優しさと思いやりの詰まった料理は、人々の悩みや苦しみをも癒す力があるようで……。

仕事のトラブルに泣く姉には蕩けるほど煮込んだ肉じゃがを、原稿が描けないマンガ家には思い出のきのこパスタを、イケメンのくせに恋愛ベタな友人には特製〝山形のだし〟を、ママに素直に甘えられない姪っ子にはほかほかの玉子焼きを。どれもこれも、一般的なレシピに温人の一工夫が加わって、実に美味しそう!

そしてその味わいは、食べた人の心のわだかまりを少しずつほぐし、「美味しいものを食べると元気になる」ことを改めて思い出させてくれます。日々積もり続ける仕事や人間関係、子育ての疲れも、本書を読めば明日へのエネルギーに変えてくれること間違いありません。

著者の武内昌美さんは、マンガ家としての経歴も長く、本書が一般文芸デビュー作品となります。少女マンガ編集部のリアルな現場を描いた「お仕事小説」としても読みごたえは抜群。さらにリケジョの働きマン・たんぽぽさんとの恋の行く末も必見です。

余談ですが、武内さんとの初めての打ち合わせでいちばん盛り上がったのが、「温人のような彼氏がほしい!!」という話。仕事が終わり、家事を片付けて、寝る前に一話ずつ読み進め、本を閉じて眠りに落ちるまでの少しの時間──温人の料理で心も満腹にしてもらえたらいいな。そんなことを願いながら、本書を世に送り出したいと思います。

──『泣き終わったらごはんにしよう』担当者より

泣き終わったらごはんにしよう

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