異世界転生ライトノベルの人気の秘密を徹底解剖!

「異世界転生」というラノベジャンルをご存知ですか?小説投稿サイト「小説家になろう」を中心に、今や一種の「大喜利ゲーム」のように楽しまれているこのジャンル。実はテンプレさえ押さえれば、誰にでも参加できるんです。そんな「異世界転生ライトノベル」の世界に迫ります!

アニメ化、漫画化、映画化など、人気作のメディアミックスが評判を呼ぶライトノベルの世界。

現在、「異世界転生モノ」というジャンルがライトノベル界隈で流行となっていることをご存知ですか? 「異世界転生モノ」のライトノベル作品には、ある程度お決まりのパターンが存在し、そのパターンさえ押さえれば、誰しもこのジャンルに参加することができるんです。

今回は異世界転生モノを軸に、ライトノベルの現状を考えていきましょう。

(合わせて読みたい:【携帯電話を使いこなす森鴎外、メイドカフェに通う太宰治……?】もしも現代に偉人が転生したら。

 

異世界転生モノは飽和状態?

「小説家になろう」が開催した第4回ネット小説大賞で、受賞作品が軒並み「異世界転生モノ」と呼ばれるジャンルであったことが話題を呼びました。

下記にまとめたのは、その受賞作品のタイトル一覧。どれもこれも、「異世界」「転生」という言葉を盛り込んだものばかりだというのがお分かり頂けると思います。

グランプリ 『回復魔法を得た童貞のチーレム異世界転移記』
金賞 『異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう』
『再召喚された勇者は一般人として生きていく?』
『聖者無双~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~』
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』
メディア賞 『ラスボスの向こう側~最強の裏ボス=邪神に転生したけど、1000年誰も来ないから学園に通うことにした~』
受賞 『異世界駅舎の喫茶店』
 『異世界×サバイバー』
 『異世界娼館の支配人』
 『異世界でアイテムコレクター』
 『異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。』
 『異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件』

 

このブームは一過性のものにとどまらず、2016年11月現在でも「小説家になろう」のTOP10ランキングに入る作品のほとんどが「異世界転生モノ」です。

そんな飽和状態を受けてか、今年行われた「文学フリマ」と「小説家になろう」のコラボレーション企画「文学フリマ短編小説賞」では、「異世界転生」や「異世界転移」の要素を持たない作品に対象を制限するという措置が取られたことも話題となりました。

 

人気の理由は、「俺TUEEEE」な無双状態。

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なぜこんなにもライトノベルで「異世界転生モノ」がウケているのでしょうか?

注目すべきは、これらのライトノベルの基本設定はどれも、主人公が異世界に転生を果たすことによって、現実世界では満たされなかった願望が充足されるか、その期待がことごとく裏切られるかのいずれかであるということ。

例えば、現実ではダメダメでモテない主人公が、突然ゲーム世界に飛ばされ最強の力を手に入れることで無双状態になり、さらには可愛い女の子からモテて、ハーレム状態になる……というのがこのジャンルにおける王道の展開です。つまりは、現実にはできないことであっても「異世界転生」すれば可能になるという、うだつの上がらないダメ男子の「ロマン」や「空想」を体現したジャンルになっているのです。

 

ラノベ流、“n番煎じ”の楽しみ方。

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しかし、異世界転生モノの人気加熱により、ネット投稿小説の世界では現在、次々と似たような作品が多く生み出され、「粗製乱造」と言っても差し支えない状態になりつつあります。同じパターンで話が展開し、同じような結末を迎えるのです。それなのに、異世界転生モノは売れ、ヒット作品を生み出し、多くの作品がアニメ化や漫画化までされているのはなぜでしょうか?

その理由としては、各ラノベレーベルの商業的な思惑ももちろんありますが、SNSや動画投稿サイトを中心として大喜利ゲーム的にブームが広まっていくという近年の傾向もあるでしょう。あるヒット作品が出ると、すぐにその「二番煎じ」的な作品が出現し、そのテンプレートを全員参加式に楽しむ輪が広がっていくことによって、「n番煎じ」的な表現が雨後のタケノコのように生まれてくるのです。

とはいえど、各作品は「オリジナル」に対する「コピー」、「本流」に対する「亜流」の割合が高くなり、ブームが飽和を迎えると、あとはただただ飽きられていくのみ、というのが世の常です。それなのに「異世界転生モノ」が人気を維持し続けている現状からは、それがライトノベル界における一つジャンルである以上に、和歌の世界における「五七五七七」のような、表現における共有フォーマットとなっていることがうかがえるでしょう。

ネット投稿小説の世界では、似たような作品が次々と出てくることによって、そのフォーマットがあたかも全参加者が共有する一つの競技ルールのように広まっているのであり、そこでは誰もが皆「異世界転生」というゲームを必死で遊んでいるのです。

 

自動販売機にも転生できる? 異世界転生モノのパターンを知ろう

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それではここで、異世界転生モノを書く上で大切になる3つの物語パターンを見てみましょう。

先ほども話ししたように、ラノべでは基本設定を少し変えれば、たとえ展開が同じだとしても楽しまれる傾向にあります。なので、展開のパターンを抑えれば、きっと皆さんも「理想」とする設定をひとつ考えるだけで異世界転生モノが書けてしまうのです!

1つ目は、「なろう系異世界転生小説」と呼ばれる「小説になろう」でテンプレ化されつつあるパターン。一番王道とされていて、多くの異世界転生作品でこの展開が見受けられます。

まず、序盤で主人公がトラックに轢かれて死ぬ。これは別名、トラック転生と呼ばれています。次に死んだかと思いきや、魔法使いやモンスター、精霊などが登場するRPGのような異世界に飛ばされる。ここで、自分の理想とする設定や世界観を持ち出すことによって、他の作品との区別化を図りましょう。最後は、現実世界ではダメダメまたは普通だった主人公が最強の力を手に入れ大活躍し、可愛い女の子と結ばれて終了。いわゆる主人公が最強である「俺TUEEEE」作品で、ハッピーエンドで終わるものが多いパターンです。自分の理想が一番反映させやすく、書きやすいパターンではないでしょうか。

2つ目は、異世界転生するが逆に無力になるパターン。異世界転生したことで主人公が最強になるのだろうという予測をあえて外し、転生前と変わらなかったり、何の能力も持たずに異世界で生活するパターンです。ほのぼのとしたサクセスストーリーから、ギャグストーリー、事件に巻き込まれるシリアスなストーリーまで、書き手の表現したいことによって作品のトーンを選ぶことができます。例えば、「死んだと思ったら赤ん坊になっていた」という展開の作品があります。赤ちゃんから主人公が人生を生き直すという、「転生」の本来の意味に即したストーリー展開が、かえって異世界転生モノの王道に対するパロディーとなっているのです。

3つ目は、珍しいパターン。人間以外の「物質」に転生するパターンです。想像がつきにくいと思いますが、実際に「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」という作品があります。かなり強烈なタイトルですが、内容も支離滅裂で、自動販売機マニアの主人公が交通事故から自動販売機を守って死んでしまい、「自動販売機」に転生してファンタジー世界で女の子と出会い活躍してしまう物語です。自分が人間以外の物質になることのカオスさと設定が受け、書籍化もされています。他とは違った作品を書きたいという人にはオススメのパターンです。

 

4文字から57文字に、気になるラノベタイトルの変遷

さて、ラノべのパターンを理解したところで、ラノべの特徴とも言えるタイトルについてお話ししていきたいと思います。

ラノべのタイトルで一番目を引くポイントといえば、「長文タイトル」ではないでしょうか?先ほどご紹介した作品「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」も十分長いですが、さらに長いタイトルの作品も存在します。

たとえば「男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。」という作品は、タイトルの文字数を句読点まで含めると54文字にもなります。

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そして異世界を舞台とした人気シリーズのスピンオフ作品「ソードアート・オンライン オルタナティブガンゲイル・オンライン -サード・スクワッド・ジャムビトレイヤーズ・チョイス-」は驚異の57文字。ここまでくると、もはやどのように略したらいいのかも分かりません。

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そんなラノべの特徴とされる「長文タイトル」ですが、当初から長文だったわけではありません。講談社ラノべ文庫編集長の猪熊泰則氏は「ライトノベルも昔は「とらドラ!」など、読んだ時の音の響きが良い4文字のタイトルが流行っていたが、2008年に電撃文庫から出た『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のヒットで状況が変わった」と話しています。

このヒットを受け、他の出版社も同じように説明口調にしたタイトルのラノべを出すようになりました。とはいえ、闇雲に長いタイトルを付ければ全てがヒットするわけではありません。出版社は「魔王」や「勇者」といった読者が好むであろうキーワードをタイトルに盛り込むなど、意識しながらこのような長いタイトルを考えているのです。

参考:本の題名、やたら長くなっているのはなぜ(NIKKEI STYLE)

 

 

面白そうだから、異世界転生モノのタイトルを考えてみた。

ここからは、P+D MAGAZINE編集部が5分で考えた異世界転生ライトノベル風のタイトルの紹介になります。同じく5分で考えた架空のあらすじとともにご覧ください。

 

『魔法世界に転生したんだから、立ちションぐらいいいよねっ!』

主人公に「立ちションマニア」という設定を当てはめたら、きっとこんな小説になるはず。「立ちション中のトラック事故で、魔法世界に転生した俺。これからは魔法の力を借りて、好きなところで立ちションできるぞ!」という、軽犯罪スペクタクルになるのでは?(きっとファンからの愛称は「まほたち」でしょう。)

 

『巨乳美女に転生したかった俺が、松坂牛コンテストで金賞を獲るまで』

タイトルの時点で悲しい(?)オチが見えていますが、その経緯が気になりますね。美女も和牛も、手間ひまかけて育てられることに変わりはないのだから、結果オーライなのかも?

 

『異世界転職プランナー 〜魔界はとってもホワイトでした〜』

「転生」と「転職」をかけた、いかにもありがちなタイトル。「ブラックバイトに明け暮れる俺。過労死したと思ったら、魔界企業の正社員に! 嘘、定時に帰れるの!」……きっとそんな内容になるはずです。

 

『どうやら俺は不動産王!転生ついでにアメリカ大統領選に出馬してみた』

時事ネタ。「ここは自由の国・アメリカだし、好き勝手に暴言が吐けるぜ!」という爽快感とともに、ディストピア小説にも似た後味の悪さが残ることでしょう。

 

『文房具転生譚 〜練り消しゴムは砕けない〜』

「クラスでもっとも存在感の薄い僕が、いつも通りお昼休みの時間に消しゴムカスを集めた練り消しを作っていたところ、クラスメートの投げた三角定規が頭に刺さって死亡。意識が戻ると、そこは筆箱の中の世界で、僕は“練り消しゴム戦士”として粘り強く戦うことを決意するのだった。」……こんな無理のある設定も、ラノベなら許されそうなのが凄いですね。

 

終わりに

異世界転生モノのヒット作品はたくさんありますが、テンプレート化された展開にのっとり、タイトルのつけ方を工夫すれば、簡単に自分だけの理想が詰まったラノべを書くことができます。特に本を買う時に重要なのが、タイトルのインパクト。タイトルのインパクトが弱ければ、本を手に取ってもらえないかもしれません。

今回ご紹介したポイントを踏まえ、インパクトのある、ラノべ特有の長いタイトルを考えてみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2016/11/17)

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