武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第13回「特効薬:リングフィットアドベンチャー」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
専業作家になり、
加速していく運動嫌い。
コロナ禍で見つけた対策とは?

 小学校の頃、通知表の体育の評定は大抵ろくなもんじゃなかった。運動が嫌いだったからだ。

 私の母親の教育方針の中にはいくつか奇妙なものが紛れ込んでいて、その内の一つに「ドッジボールが強ければ小学校生活はなんとかなる!」というものがあった。今の子達は多分、ドッジボールで使用されるボールといえば柔らかいふわふわなものを想像すると思うが、私が小学生の頃はやたらと硬いボールを使っていた。上手くキャッチすると、胸元でバシィッと小気味の良い音がする。

「どんなに速球でも正面から衝撃を殺して受け取れば痛みはない」という母親の持論を聞かされた時には、なんで私は少年ジャンプの訓練シーンみたいなことをやらされてるんだと子供ながらに疑問に思った。だが、別にボール遊びが嫌いなわけではなかったので、住んでいたアパート裏にある大きな空き地で母親とキャッチボールをするのが一時は日課になっていた。その甲斐あってか、休み時間になると「ドッジボールやろうぜ!」と校庭に引っ張り出される小学生時代を送った。「ドッジボールをやらなあかん時に、嫌やなぁとか怖いなぁとか思う学校生活は苦痛やんか」と母親は後に語っていたが、今考えると一理あったのかもしれないなと思う。

 

 そういった事情でドッジボールだけは得意な人間に育ったのだが、それ以外の運動はからっきしダメだった。特に鉄棒。逆上がりは人生で一度も出来たことがない。多分、腕の筋肉があまりにないのが原因だ。そうこうしているうちに中学生になった頃にはすっかり運動が嫌いになり、高校生の頃には体育の授業が来るたびに憂鬱だった。一番嫌いなのは長距離走で、どうにかして楽に単位がもらえないかと色々画策していた。大学生の頃は必修授業に体育がなかったので、文学部にして良かった~! とこの進路を選択した過去の自分に感謝の舞を捧げていた。

 そして社会人になり、私の運動嫌いっぷりは加速した。社会人といっても専業作家なので、職場は家である。会社に通う必要はないし、好きなだけ寝だめ出来てしまう。

 私は家が好きだ! 自分の部屋をこよなく愛している。買い出しもゴミ捨ても家を出るのは必要最低限がいいし、外に出て散歩するくらいなら一分でも多く寝たい。たまに肩とか腰とかとんでもなく痛くなって悶絶してるけど、まぁ二十代だし問題ないでしょ! と高を括っていたところ、コロナ時代がやって来た。これがまぁ、ものの見事に私の不健康っぷりを炙りだしたわけである。

 


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\第42回吉川英治文学新人賞受賞/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』などがある。

ゲスト/窪 美澄さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第1回
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第142回