武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第15回「推しとは何ぞや」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
「あなたの推しは?」
と聞かれる昨今。
そもそも推しってなんだろう?

 20代前半の頃、「好きなアイドルや俳優はいないの?」とよく聞かれた。そしてその度に「いや~、いないですねぇ」と面白みのない返事をしてきた。

 私の周りにいる女たちは、ジャニーズや舞台俳優を追いかけている人が多い。推しを追いかけている人間は輝いていて、何だか人生が楽しそうだ。推しの為にスケジュールを組み立て、推しによる供給が日常の刺激となっている。私だって推しが欲しい。

 だが、そもそも推しとはなんぞや。

 アイドルや俳優を好きになるってことだろうか。そうは言っても、単なる好きの感情を「推す」とは呼ばない気がする。他のユニットやメンバーより贔屓します、熱烈に応援します、めちゃくちゃファンです! とか、そういうニュアンスで正しいのだろうか。

 

 私の世代の男性アイドルといえば、嵐だ。こういう場ではさん付けで書いた方がいいだろうかと毎回悩むのだが、それはそれでなんだか違和感があるので以下敬称略とする。

 私が学生の頃、「花より男子」がとにかく大人気だった。原作は少女漫画で、ドラマ化、映画化もされた作品だ。主人公の貧乏少女、牧野つくしとF4と呼ばれる大金持ちの男子グループの人間関係を描いたストーリーで、ギャグありシリアスありの傑作である。恋愛ドラマに全く興味が無かった私ですら見ていた。このドラマには松潤が出演し、さらにエンディングを嵐が歌っていた。嵐人気はとどまることを知らず、友人たちは松潤派だ櫻井翔派だと盛り上がっていた。

 だけど私はどうにも男性アイドルを推したいという気持ちにはなれなかった。これは多分、私なんぞが推すだなんておこがましいですよね……みたいな捻くれた感情が根っこにあったからな気がする。卑屈をこじらせていると、応援している自分を過剰に意識し過ぎて面倒臭い奴になってしまう。

 じゃあ、自分の人生で本当に推しがいなかったのか。考えて考えて、最近になってようやく気付いた。そういえば、私の生活に侵食しまくっている存在がいた。オードリーだ。オードリーと言っても女優のヘプバーンの方ではなく、芸人の方だ。侵食し過ぎているせいで、もはや推しという概念すらなかった。


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\第42回吉川英治文学新人賞受賞/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』などがある。

みんなの「読書感想文におすすめしたい本」結果発表!
「推してけ! 推してけ!」第9回 ◆『シンデレラ城の殺人』(紺野天龍・著)