武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第16回「作家、家を探す。」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
京都府宇治市出身の著者が、
東京のど真ん中で新しい家探し。
できれば叶えたい条件とは?

 家探しって、楽しいけどめんどくさい。

 大学を卒業して上京するまで、私はずっと京都府宇治市の実家に住んでいた。宇治はかなり住みやすい街だ。買い物には困らないし、自然も多いし、近くには文化遺産もあるし。正直に言えば、大学生の頃には宇治以外の街に住むつもりなんてサラサラなかった。私は一生宇治に住むんだろうな~とぼんやりと思っていた。

 私が上京することに決めた理由は「ノリ」の一言に尽きる。なんというか「どうせ失うものもないし、とりあえずやってみるか!」という気持ちだった。だが、その決断の一番大きな後押しとなったのは、ずっとマネージメントを担当してくれている編集者のおかげだろう。彼女は私の所属している会社の社長でもあり、色々とお世話になっている。私にとって、「東京の母」だ。現在も仕事のスケジュール管理は全て彼女が行ってくれている。

 最初に東京で家探しをする時、「綾乃ちゃんはどういうところがいいの?」と聞かれた。その時、私は「川の近くがいいです」と答えた覚えがある。生まれてからずっと宇治川が身近にあったので、川のない生活というのが想像できなかったせいだ。川の近くの家というのは水害のリスクだったり虫(宇治の場合はトビケラという無害だが見た目が可愛くない羽虫が夏前に発生する)が寄りつく可能性があったりするわけだけれど、それを踏まえても私は川が好きだった。なんというか、水の音が好きなのだ。夏の早朝、まだ空気が澄んでいる時に川沿いを歩くと気持ちがいい。

 友人のNちゃんとルームシェアをしていた数年間は川の近くに住んでいた。二人でよく夜の川沿いの遊歩道を散歩して、ついでにアイスを買ったり、ポケモンGOが流行っていたので野生のポケモンを探していつもより遠回りで家に帰ったりしていた。あれはあれで楽しい毎日だった。


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\第42回吉川英治文学新人賞受賞/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』などがある。

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第155回
警察小説大賞受賞作刊行記念 ◆ 知られざる検察小説の世界 直島 翔 × 柚月裕子