武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第19回「大人の証」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
もう少しで30歳。
飲み会での議題も
現実めいた話が増えてきて……。

 先日の友人との飲み会での議題は「結婚」についてだった。もう少しで三十歳という年齢になると周りには結婚している友人も増え始め、どのコミュニティに属しているかで話題も少しずつ変わっていく。大学生時代は「○○君とこの前初めてデートして~」とか「この前の合宿で××先輩に告白されて~」みたいな話をキャッキャッとしていたが、今では「結婚したら自分の名字が変わるのが納得いかなくて~」だとか「家を買うならマンションか戸建て、どっちがいいのかな~」だとか「保育園に入園できるか心配でさ~」といったなんとも現実めいた話が主流となってくる。凄い、大人みたいだ……! と毎度のことながら感慨深くなってしまうのは、自分が大人になる儀式をすっ飛ばしているからかもしれない。

 組織の中で働く人たちは、自分の立ち位置というのを常に意識しなければならない。上司と部下。配属先。会社の業績。そうしたものを考えながら組織の一員として動く。その間に人と人の間で揉まれ、振る舞い方を身につけていく。

 しかし作家はどうしても個の側面が強いので、そうした社会のルールというものを知らずに過ごしてしまったりする。さらに私は学生時代の延長のような形で仕事を続けてしまったので、自分の年齢を改めて確認する機会があると「もう立派な大人じゃん!」とビックリしてしまうのだ。

 

 私が作家になったのは二十歳の頃で、その当時、多くの大人が私に手を差し伸べてくれた。年上の編集者さんが色々と世話を焼いてくれたり、私がふさぎ込まないようにお茶に誘ってくれたり。あの頃は助けてくれた人のことをずっと年上の大人な存在に思っていたが、あれから十年経った今、当時の彼らの年齢を通り越してもまだ、自分が大人になった実感はない。

 多分、大人っていうのは状態じゃなくて、『役』なんだろうな。あくまで相対的なものであって、世界に私一人しかいなければ私は別に大人でも子供でもない。子供の前、後輩の前、若者の前。そういう時に、人は頼りになる大人の役を演じる。その振る舞いを社会で続けることこそが、大人になるってことなんだ。

 だから、内面が大人になり切れないことを不安に思う必要って本当はあんまりないはずだ。というか、不安に思ったところでどうこうなるもんでもないから、そんなことで気落ちするくらいならカニカマを焼いて食べた方がいい。「そう頭では分かってるんだけどなー……」と呟きながら、結局いつになっても不安を飼いならせず、真夜中にソファーで寝そべっている。

 もしかすると、こうして悩むことこそが自分が大人になったという証なのかもしれない。

 


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\第42回吉川英治文学新人賞受賞/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』などがある。

ゲスト/荒井裕樹さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第7回
2021年啓文堂書店文庫大賞で佐藤正午さん『永遠の1/2』が第1位に!