武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第20回「結婚にまつわるエトセトラ」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
幼い頃から恋愛が苦手だった。
そんな著者が、電撃結婚!
きっかけは?

 結婚しました。

 と友人にLINEグループで報告したところ、付き合いが長い子ほどビックリしていた。「嘘やろ!」「信じられん!」「それは実在の人物ですか?」など好き勝手言っていたが、報告した私自身もビックリしていた。なんせ、まさか自分が結婚する日が来るとは思ってもいなかったからだ。

 

 幼い頃から恋愛が苦手だった。というか、どうしても興味が持てなかった。少女漫画より少年漫画、恋愛映画よりアクション映画が好きで、恋愛要素がストーリーに加わるとげんなりしていた。

 小学校・中学校・高校と、この性質は非常に相性が良かった。なんせ、学生時代は奔放に恋愛すると色々と言われてしまう。大抵の大人は子供に向かって「不純異性交遊反対!」と言うし、それを繰り返し繰り返し聞かされ続けていると、恋愛というものが汚らわしいものに感じるようになる。そして「人生に恋愛は不要かもなぁ」という考えがアイデンティティに食い込み始めた頃、突如として大人は「彼氏は? いつ結婚するの?」などと言い始める。「ええ!? 恋愛するなって言ってたじゃん」とすっかり肉体だけは大人になった私はビックリするわけである。

 とりあえず恋愛してみるか……と思い立ち、そして私は最初の難関にぶつかった。恋愛感情というものがよく分からないのである。

 

 学生の頃は、皆と同じようにしなければならないと思い込んでいたから、心の隅っこにある感情を引っ張りだし、こねくり回し、これが多分、皆が言ってる恋愛感情ってやつだよね? と恐る恐る真似をしていた。そしてそれを繰り返している内に自分の中で膨れ上がる嫌悪感に耐えられなくなり、やっぱもうええわ……の心境になった。こんなに嫌な思いをしてまで恋愛って挑戦しなきゃいけないものですか? と結構な頻度で考えていたが、いま振り返ると色々と相手を振り回して申し訳ない限りだ。

 当時の自分が恋愛を忌避していた理由を、私はハッキリと理解している。自分が女性であるということを受け入れるのが難しかったからだ。生まれてからずっと性自認は女性だし、それを疑問に思ったこともない。だが、女性らしい振る舞いをする自分をどうにも許せない。「うわっ」とか「なにやってんねん」とか、とにかく俯瞰的に自分を見てしまうのだ。

 恋愛とは、自分の性別を最も意識する行為だ。

 

 世の中には異性愛者も同性愛者も無性愛者もごくごく当たり前にいて、自分がどのカテゴリに属しているかが分からなかった。どれにも当てはまらない気もするし、全てに当てはまっているような気もしていた。誰かを好きになることは自由であるべきだと主張できる時代に生まれてきたからこそ、自分の可能性がちっとも絞れなかった。


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\第42回吉川英治文学新人賞受賞/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』などがある。

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