武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第20回「結婚にまつわるエトセトラ」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
幼い頃から恋愛が苦手だった。
そんな著者が、電撃結婚!
きっかけは?

 そうこうしている内にアラサーになり、上京してからずっと一緒にルームシェアしていたNちゃんが京都に帰って結婚した。一人暮らしを始めたことで、私はますます恋愛に興味を失った。というか、仕事にのめり込んでいった。いやぁ~、デビューから何年経っても作品を作るのって本当に楽しい。できることならありとあらゆる分野に手を出して、その道のプロの人たちがどういう思考で動いているのかを間近で見たい。才能に溢れた人と仕事をすると、それだけでいつも大きな刺激になる。

 そんなこんなで順調に仕事を続けていたのだが、突如として深刻な問題に直面した。『自分の為に生きることに飽きた』のである。これはもう、本当に深刻だった。自分を喜ばすことにも飽きたし、自分を追い詰めることにも飽きたし、自分を労ることにも飽きた。仕事は大好きだけど、仕事以外でのインプットが無さ過ぎる。殻にこもったマンネリな生活は安全だけど、外部からの感情の刺激が無い。このままではいつか、小手先でしか小説が書けなくなってしまうかもしれない……。そう漠然と怯えていた時に、今の夫を紹介された。

 

 夫と出会ったのは、大学時代の友人Tがきっかけだった。Tは名古屋に住んでいて、向こうが東京に来た時やこっちが名古屋に行く時によく一緒に飲みに行った。夫はTの旦那さん(当時はまだ彼氏だったが、先日結婚した)の友人で、東京に住んでいた。「綾乃に紹介したい人がいるんだけど!」と意気揚々と言ったTに、私はとてもビックリした。というのもTが誰かを紹介したという話を聞いたことがなかったからだ。「ちなみに、なんで紹介しようと思ったん?」と聞いた私に、「ゲーム会社で働いてて、オードリーのオールナイトニッポンを聞いてるから!」とTはあっけらかんと答えた。

「同じお笑い芸人が好きな人って、付き合うのにいいと思うの。笑いの感性が似てるってことは、会話のセンスも似てるってことかなと思って!」そう言われて、私は目から鱗が落ちた。な、なるほどー! そんな風に考えたことは一度もなかった。

 そしてあれよあれよという間にTの手によって相手のLINEを教えられた。ただTはちょっとざっくばらんなところがあって、「後は二人でご自由に!」と連絡先を双方に教えただけで撤退してしまった。私は恐る恐る相手とLINEのやりとりをしたのだが、Tから写真をもらえなかったので向こうの顔がさっぱりわからなかった。うーん、平安時代の恋愛って多分、こんな感じだったんだろうな。

 初めてLINEをやり取りして数日後には、二人で通話する約束をした。いきなり会うのは怖いのでゲーム通話をしようという話になったのだ。何をプレイしたかはハッキリと覚えている。『スプラトゥーン2』と『Super Bunny Man』だ。初めての通話の日、ゲーム自体は三時間くらいで止めたのだが、その後四時間くらいぶっ通しで雑談した。今考えてもかなり異常だ。

 初対面の人間(まだ顔を合わせてはいなかったが)とここまで話が合ったのは初めてだったし、ここまでしっくりくる感覚を覚えた人間も初めてだった。そして実際、結婚するに至った。……こう考えると、Tの読みはめちゃくちゃ鋭かったんだと思う。学生の頃、人と人をくっつけるのが上手な子がいたが、こういう仲人のセンスってどこで磨かれるんだろう。創作物の中でならいくらでも関係性を考えられるのに、現実世界だと難しい。

 

 正直に言えば、結婚ってどんなものなのか今でもよく分かっていない。でも、人生を共にしたいと願う人に出会えたことはとても幸運なことだと思う。未来がどうなるかは分からないけれど、今こうして気持ちが存在することは間違いなく確かなことだから。

 


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\第42回吉川英治文学新人賞受賞/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』などがある。

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