武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第24回「幸福を呼ぶ猫」

新しくやってきた猫だった。
実家で暮らす猫たちのお話。
実家には現在猫が二匹いる。マンチカンの「ムタ」とさび猫の「ナナ」だ。年は大体二歳差ほどあり、ムタの方が先住猫だ。
「ムタ」という名前はジブリ映画『猫の恩返し』に登場するムタさんからとった。身体が大きく、ちょっとぽっちゃりしていたからだ。前に飼っていた猫も「バロン」と名前を付けていて、我が家ではジブリ映画のキャラクターから名前を付けることが多かったのだが、「ナナ」だけは由来が違う。母親の「なんか七色に光ってて、幸福を呼びそうな毛色やな!」という印象から付けられた。
元・野良猫のナナを飼うことになったのは、母の通う美容院に猫の保護活動を行っている方がいたからだった。里親を探しており、我が家で引き取ることとなったのだ。サビ猫というのは黒色と茶色(たまに金色)が不規則に入り混じった柄をしている。この茶色の要素が多いと「べっこう猫」と呼ばれるみたいで、その呼び名にピッタリな独特な風合いをしている。私としては、日本画の絵の具セットから飛び出してきたような見た目をしていて非常に美しいと思っている。
オス猫のムタは人懐っこい性格をしていて、全くといっていいほど人見知りをしない。来客があると自分から進んで寄っていき、構って構ってとじゃれてくる。逆に、ナナは雌猫で警戒心がひときわ強い。さらに運動神経も非常に良いので、来客が来るとピャーッと目にも留まらぬ速さで隠れてしまう。
特に、ナナにとって男の人は天敵らしく、存在を感じると警戒を解かない。そのため一緒に住んでいるはずの弟の前にもしばらく姿を現さなかった。どうやら声で反応しているらしく、電話から低い声が聞こえるだけで家具の裏などに隠れてしまう。弟がナナに触れるようになったのは、ナナが実家にやって来て一年程経ってからだ。構ってくれない猫じゃらしを振ってみたり、ちゅーるをあげたりという涙ぐましい努力の成果らしい。
私も時々実家に帰るが、ナナに会うには根気がいる。一晩は絶対に姿を現さないので、諦めてお客さん用の布団で寝る。そうすると真夜中にゴソゴソと音がするので薄目を開けて様子を窺うと、ナナがこーっそりと私の足元を歩いていたりする。「このツンデレめ~!」と思ったりするが、ここで起き上がったりするとすぐさま逃げ出すのが分かっているので、私はじっと耐える。そうこうするうちにナナは私に気を許し、翌朝ぐらいから一緒に過ごすことを許してくれるようになる。
――が、東京に戻ると私のことなどすっかり記憶から抜け落ちるらしく、帰省する度にナナは再び顔を見せてくれなくなる。一方、ムタはというと私が玄関に入った途端にお尻をフリフリと揺らして機嫌良さそうに擦り寄って来る。神対応も塩対応もバッチリだ。猫という生き物は、どんな対応をしようが可愛いものなのである。
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(文藝春秋)

(講談社)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『世界が青くなったら』などがある。