武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第26回「おめめの天敵」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
視力が下がって以来
眼鏡を掛け続けてきた著者、
コンタクトレンズに再挑戦!?

 しかしそんな私も、コンタクトデビューをしようと試みたことがある。大学入学の時だ。眼科に行って処方箋をお願いすると、スタッフのお姉さんがやって来て私にコンタクトレンズのつけ方をレクチャーしてくれた。「上の瞼と下の瞼をしっかり押さえて、両目を開けたままで装着するんですよ~」と言われたのだが、これが非常に難しい。まず、瞼を押さえ続けることが辛い。ドライアイだから。さらに、瞳の上にレンズを載せるという行為が怖い。

 私がいつまで経ってもつけられずにグダグダしていると、「こんな感じですよー」と言いながらお姉さんが指でガガッと私の目にコンタクトレンズを直接装着してくれた。多分、怖がっていた私に対する優しさなのだと思うけれど、人の指が自分の目に近付いてくる感覚はこわい。今思い出してもこわい。

 コンタクトレンズをつけてもらうと、今度は外さなければいけなくなる。これにもてこずり、結果的に二時間ほど眼科に滞在する羽目になった。目に触り過ぎてヘトヘトになっていたため、「もう二度とコンタクトはつけない!」と眼科からの帰り道に私は決意した。

 

 あれから十年程経つ。三十歳目前になった今なら、スムーズにコンタクトレンズを装着できるはず! と鼻息を荒くして眼科に行ったわけだが、結果は散々だった。コンタクトレンズを装着するのに苦労し、さらに外すのにはもっと苦労した。一時間ぐらい四苦八苦していたせいだろうか、無事にレンズを外せた時にはスタッフの人に「おめでとうございます!」と思いのほか大きい声でお祝いされた。大人に温かく見守られる経験というのは久しぶりで、申し訳ないやら恥ずかしいやらで「すみませーん」と連呼することしかできなかった。

 

 眼科から帰る時はぐったりとしていた。しかし今回は前の時と違い、コンタクトへのやる気を挫かれることはなかった。なぜならば、結婚式までにつけられるようにならなければいけないからだ! 人間とはやはり、明確な目標があると頑張れるものなのだろう。

 

 逆上がり、高跳び、ダンス……。学校に通っていた時に出来なかったものはたくさんあるが、大人になってから出来るようになったものが一つでも増えるとしたら、それはきっと喜ばしいことなのだと思う。

 


「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『世界が青くなったら』などがある。

千葉ともこさん『戴天』
辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第16回