武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第28回「家の本、置くスペースなさすぎる問題」

本棚を置けるスペースの小ささに
愕然。まったく足りない!
先日、八咫烏シリーズの作者である阿部智里さんとアフタヌーンティーに行った。阿部さんとは定期的にお茶する仲で、いつも面白い本や漫画を教えてもらう。「最近、ファンタジー小説を読みたい気分なんですよ」と言った私に、阿部さんが勧めてくれたのが海外児童文学の『アルテミス・ファウル』シリーズだった。他人から勧められたものは積極的に読む! というのが私のモットーなので、とりあえず三巻までまとめて買った。
ところが、だ。家に帰って本棚を見ると、既にぎゅうぎゅう詰めで新しい本が入る余地がない。単行本や文庫本といったサイズの違う本がテトリスのように複雑に縦横に組み合わされて収まっている。
どうしたもんかと思って足元を見ると、見本誌の入った段ボール箱のタワーが部屋の隅に押しやられていた。どう考えても新しい本が入る余地がない。これじゃあ仕方ないよね~と、私は『臨時で本を入れるスペース』に本を突っ込んだ。このスペースは本屋さんでもらった紙袋で形成されている。つまり、本にとってここは正式な住居ではなく、「ちょっと一人の時間が欲しいから……」と庭にテントを立てて簡易的な自分のスペースを作った程度の場所なのだ。
そういえば、東京で暮らし始めて愕然としたのが本棚を置けるスペースの小ささだった。京都の私の実家は昔ながらの和風建築で、やたらと押入れがあった。そのため、どれだけ本を買っても押し入れに詰めてしまえば問題がなかったし、さらにいうと廊下一面が漫画棚だったので困った時にはそこに突っ込んでしまえば良かった。
しかし、実家を出て新生活を始めるとそうはいかない。実家を出るタイミングというのは人によってそれぞれだが、大抵は大学生になったり社会人になったりと、人生の転機のタイミングじゃないだろうか。そういう場合、まず住むのは賃貸が多いだろうし、ワンルームの人も少なくないと思う。キッチンは狭いし、浴室も狭い。ベッドは部屋のかなりのスペースを占めている。そんな状況でバカでかい本棚を部屋に置いたなんて日には、圧迫感がとんでもないことになる。地震だって怖いし、倒れてきても大丈夫なように腰丈くらいのカラーボックスを置くぐらいしかできない。
じゃあ、本は一体どこにしまえばいいんですか!!??
若かりし頃の私の、魂の叫びである。本・漫画好きな人ならば百パーセント共感してくれるに違いない。私は上京してからの数年は友達とファミリー用の部屋でルームシェアをしていたのだが、それでも本を置くスペースは全然足りなかった。実家から東京へ持ってきた本は本当に厳選したものだけだったし、シリーズものの漫画は最新刊だけを手元に残してあとは全て実家に送った。それでも場所が足りない! 全然足りない!
「いやいや、生まれてから今に至るまでに誰かからもらったぬいぐるみ、全部手元にとってますか? お気に入りのもの以外、普通は捨てたりしてますよね。それと一緒ですよ」などと、本を読まない友人からはシビアなことを言われたこともある(友人の『捨てにくいものランキング』の堂々の一位はぬいぐるみらしい)。
「本は一度読んだ時点で役目は果たせてるんですから、読み返さないものは売るなり捨てるなりしたらいいじゃないですか」
正論だ。だけど私にとって本は、可愛いウサギちゃんのぬいぐるみよりも手放しがたいものなのである!(言い訳するならば、お気に入りの本とそうでない本を仕分けることに若干の罪悪感を覚えるというのもある)
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(文藝春秋)

(講談社)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『世界が青くなったら』などがある。