武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第28回「家の本、置くスペースなさすぎる問題」

本棚を置けるスペースの小ささに
愕然。まったく足りない!
さらにいうと、この本棚が狭すぎる問題には家の物理的スペースの他に、もう一つ大きな原因があった。
そもそもの話、私は本を買うのが好きなのだ。
世の中にはショッピングが趣味の人もいると思う。デパ地下で美味しい食べ物を買ったり、家具屋さんでオシャレなインテリアグッズを買ったり、洋服屋さんで素敵な服や鞄を買ったり。そういう楽しい習慣というのは、繰り返される毎日の潤いになってくれるだろう。
そして私にとって、その対象が本なのである。本のことは勿論好きだ。読むのも好きだし、書くのも好き。だけどそれ以上に、本を買うのがめちゃくちゃ好き!
まず本屋さんが好きだ。棚一杯にならんだ本を見るとテンションが上がるし、書店員さんのオススメみたいな人格が滲み出ている棚を見ると「あら、じゃあ一冊買っちゃおうかしら」とスーパーの野菜コーナーぐらいの感覚で本を買ってしまう。
装丁が素敵なものは良い。あらすじが面白そうなものも良い。図鑑だって興味があるし、画集や写真集だってテンションが上がるし、新書だってどれも気になる。そうやってポイポイポイと本を買い物かごに入れてレジに行くと、それだけで非常に満足感を得ることができる。
つまり読むスピードを買うスピードが上回っているせいで、本が増え続けているのである。
そんなワケで我が家は積読本だらけなのだが、積読には積読の良い所もある。「なんとなく本が読みたいな~」と思った時に家の本棚を見ると、自分が面白そうだと感じる本がずらりと並んでいるのである。この本を選んだ人、センスいいな~。あ、私だ! という流れを毎回やれるのだ。これは非常に嬉しい。
とはいえ、捨てるのはちょっとな……と読んだ本を実家に送り続ける生活もそろそろやめなければならない。私ももうすぐ三十歳。親の老後のことも考えるフェーズに入った今、実家の荷物を増やし続けるのは問題を先送りしているだけと言える。
こうなったら心を鬼にして断捨離だ! と、最近では読み終わってから何年もそのままにしている本は処分するようになった。あとは電子書籍にも手を出した(今度は読書用端末の容量が足りない問題が発生したが)。
本が手元からなくなってしまうことは寂しいが、一度読んだ本はたとえ中身を忘れたとしても自分の人格を形成する一部となっている。全てを手放したくないと欲張る生き方は大人になると案外難しいが、その分、取捨選択しながら上手くやっていく知恵が身についたような気がしている。
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(文藝春秋)

(講談社)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『世界が青くなったら』などがある。