武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第29回「地震、雷、火事、歯医者」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
こわいもの。
地震、雷、火事、
歯医者!?

 人生には怖いものがたくさんある。地震、雷、火事、親父……なんて言葉もあるが、私だったら親父よりも歯医者の方が百倍怖い。

 なぜ突然そんなことを言い出したかというと、現在、歯医者の待合室でこのエッセイを書いているからだ。虫歯の治療ではなく、定期健診の為にやってきている。真っ白な内装は素敵だが、そのくらいでは漠然と湧いてくる恐怖感を和らげることはできない。あー、歯医者が怖い。

 ところで、一説によると人間の歯は一本で百万円の価値があるらしい。大人の歯は二十八本~三十二本あるそうなので、口全体の価値は約三千万円。つまり、我々はフェラーリ一台を口に突っ込んだ状態で生活しているようなものだということだ。

 しかしながら、私には生まれつき大人の歯が二本ない。先天性欠如歯というもので、現代だと十人に一人の割合で見られるそうだ。人によっては親知らずが先天性欠如歯のこともあるらしい。右奥の親知らずの抜歯の為に大学病院で二時間をかけて手術した私からすると羨ましい話だ。

 私の先天性欠如歯は下の歯が二本。大人の歯がなかったために、今でも子供の歯が現役バリバリである。大人の歯と子供の歯の一番大きな違いは根っこの長さで、子供の歯の場合は歯茎が下がったりするとコロンと抜け落ちてしまうらしい。「インプラントにしませんか」と二十代前半の頃から言われているが、手術が怖くて避け続けている。

 大体の話、歯医者ってなんだかよく分からない。素敵なレストランで食べている途中で「良いお肉が入っているんですよ~」とシェフに提案されるのと同じような気軽さで、「セラミックがオススメですよ~」などと言われる。私が今まで通っている歯医者はどこも良心的なところで治療方法を細かく説明してくれていたが、そうは言っても虫歯の治療中に「ところで治療メニューはどうします?」と聞かれるとドッキン! と心臓がビックリしてしまう。そういうことは治療前に知りたい。

 さらに言うと、口の中で何が行われているか分からないところも怖い。ガガガガ、キュキュキュ、シュウィーン! とおよそ工事現場でしか聞こえない音が口内で鳴り響き続けているのだ。怖すぎる。


「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。2021年『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『世界が青くなったら』などがある。

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