武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第3回「金閣寺コンプレックス」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第3回「金閣寺コンプレックス」
金閣寺に行ったことがない!?
地元出身の著者による、
京都観光地案内!


〈清水寺〉

 Tちゃんと一緒に行った場所で一番印象に残っているのは清水寺だ。清水の舞台から飛び降りる、で有名なあの清水寺。金閣寺に行ったことがなかった私は、当然のことながら清水寺にも行ったことがなかった。「清水寺で年越ししたい!」というTちゃんの言葉に、私は感動すらした。大晦日の清水寺なんて、如何にも京都らしいじゃないか! そういうわけで、私はTちゃんを含めたサークルの友達と共に年末を過ごすことにした。

 迎えた大晦日。夜の清水寺は人でごった返していた。清水寺では整理券を持っている人は除夜の鐘を撞くことができる。この整理券の配布は十二月二十五日に始まり、無くなり次第終了となる。私達はそんなことを全く知らなかったので、鐘を撞くという発想すらなかった。本堂までは長蛇の列が出来ていて、前進するスピードもゆっくりだった。だが話しているだけで楽しかったので、待ち時間も気にならなかった。「ゆく年くる年に映るかなぁ」とTちゃんは言っていたが、私はガキ使派だったので全然ピンと来なかった。

 清水の舞台に着いたのは、日付が変わる二分ほど前だった。既に多くの人たちが年越しをここで迎えようと、その場で待機していた。手摺りから見下ろすと、ライトアップされた敷地内の様子がよく見えた。はしゃぐ人々の話し声、ゴーンと響く除夜の鐘の音。仄かに照らされる木々と、遠くに見える街灯りのコントラスト。これが清水寺か、と思った。確かに、一度は足を運ぶ価値がある。

 そうこうしているうちに、誰からともなくカウントダウンが始まった。「3、2、1」と皆が一斉に数字を刻み、ゼロになった途端に「あけましておめでとう!」と新年を祝い合った。何に対してかは分からない拍手が起こり、遠くの方で誰かが「ハッピーニューイヤー」と叫んでいた。それからちょっとした間があって、多くの人間から発せられた困惑の空気が漂ってきた。「で、どうする?」という声が周囲から聞こえてきて、そのぬるっとしたテンションの変化が可笑しかった。自然発生したカウントダウンは、当然のことながら自然に終わる。花火みたいな派手な催しを期待していたわけじゃないだろうけれど、明らかに何人かはぶつけようのない興奮を持て余していた。

「八坂神社に行くか」と周囲にいた大学生らしき人間たちは話していた。清水寺から八坂神社のコースは定番中の定番だが、元旦の八坂神社の混み具合なんて想像するだけで恐ろしい。人混みに疲れつつあった私達はその一行を横目に、出口の方へ移動した。「私らはどうする?」とTちゃんに聞くと、「晴明神社に行こう」と答えた。私の知らない神社だった。

次回更新予定日
2020-09-30

「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』がある。
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