武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第3回「金閣寺コンプレックス」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第3回「金閣寺コンプレックス」
金閣寺に行ったことがない!?
地元出身の著者による、
京都観光地案内!


〈晴明神社〉

 晴明神社は名前の通り、安倍晴明を祀っている神社だ。今から千年ほど前に、一条天皇が安倍晴明の功績を称えて創設したらしい。白い鳥居の額には神社名ではなく社紋である「晴明桔梗」が掲げられていた。「五芒星」という呼び名の方が有名だろう。

 神社自体は今出川駅から歩いて大体十二分ほどの場所にあった。私たちの通う大学の最寄り駅は今出川駅だったので、キャンパスからもそこそこ近かった。それなのに私が知らなかったのは、大学と家の行き来ばかりで外への関心をほとんど持っていなかったせいだ。

「私、ここの雰囲気が好きなの」とTちゃんは言った。元旦の晴明神社には大勢の人がいたが、それでも八坂神社の混雑に比べたらかなり過ごしやすかった。

 Tちゃんの言葉に感化されたわけではないけれど、私もこの神社が好きだ。雰囲気が独特で、お守りのデザインもカッコいい。京都観光の時にはぜひ一度行ってみて欲しいと思う。

 安倍晴明を祀っているだけあって、境内には陰陽師にまつわる色々なものが置かれている。パワースポットとして人気なのは晴明井という井戸で、安倍晴明が念力によって水が湧き出たとされているらしい。五芒星の描かれた井戸の上部は回転するようになっており、毎年立春の時期に恵方に合わせて向きを変えている。

 その他にも色々と面白いものがあるのだけれど、私が好きなのは四神門(しじんもん)だ。石柱の上には青龍、朱雀、白虎、玄武が掲げられている。安倍晴明が住んでいた頃、朝廷からの遣いが来ると勝手に門が開き、出て行く時に勝手に門が閉じたという逸話があるらしい。それにちなんで、現在設置されている門も人の手を借りずに開閉するようになっている。電動式なのだそうだ。そういったこだわりに、来訪者に対する気遣いのようなものが感じられてほっこりする。

 あの年の元旦、私はTちゃん達と晴明神社でおみくじを引いた。だが、その結果がどうだったかはさっぱり覚えていない。ただ、友達と京都を満喫しているという事実に高揚感を抱いていたことだけは記憶に残っている。「私なんかよりTちゃんの方が全然京都に詳しいね」という私の言葉に、「住み慣れちゃうとありがたみが減るのかもね」とTちゃんはさらっと答えていた。まったくもってその通りだった。

「これからはもっと京都の観光スポットに行ってみる。金閣寺とか!」と私はあの日高らかに宣言したのだが、結局今日にいたるまで金閣寺には足を運べていない。私の金閣寺コンプレックスが解消される日は、まだまだ遠そうだ。

(つづく)
次回更新予定日
2020-09-30

「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』がある。
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