武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
お茶の出る蛇口!?
京都では鉄板だというあの漬物の本当の魅力とは。
今回は、故郷の「味」のお話です。

 東京に引っ越して数年が経つが、ふとした瞬間に故郷の味が恋しくなる時がある。

 実家に住んでいた頃は当たり前に得られていたものが、実は得難いものだったと気付いたのは最近になってからだ。

 今回は京都に住んでいた頃に好きで堪らなかった二つの品について書いてみようと思う。

〈京番茶〉

 お茶を飲むのが好きだ。特に京番茶。やかんにたっぷりの葉を入れ、水と一緒にぐつぐつと煮る。熱々のままでもいいが、冷やして飲んでも美味しい。口に含んだ瞬間、香ばしい匂いが喉の奥辺りに一瞬で広がって幸せな気持ちになる。

 自分の生まれ育った町が宇治だったため、お茶はとにかく身近な存在だった。小学校の横には茶畑があって毎年茶摘み体験をさせられていたし、小学校の蛇口をひねるとお茶が出た。生まれてからずっとそれが当たり前だと思っていたものだから、宇治以外の学校ではそうじゃないと聞いた時にはとても驚いた。その後、京都市内の高校に通い、京都市内の大学に進学した頃にはすっかり普通の学園生活となっていたので、自分の生まれ育った環境を意識することは特になくなった──はずだったのだが、東京に来て如何に自分がお茶に囲まれて生きていたのかを自覚する羽目になった。

 私が東京のスーパーに行くようになって最も困ったこと、それは並んでいる茶の種類の少なさだ。いや、紅茶などの取り揃えは多いのだけれど、例えば緑茶だけ、ほうじ茶だけ、京番茶だけ、とお茶を限定させると選択肢があまりない。というか、そもそも京番茶がない。

 そもそも、私が番茶と呼ぶのだと信じていたものが京都特有のもので、「京番茶」と呼ぶということも東京に来てから初めて知った。Wikiで調べると、「番茶とは市場流通品では規格外、低級品のお茶を指す」と出てくる。要は普段使い用のお茶ということだ。地方によって色なども違うらしく、京番茶の場合は葉をそのまま炒って作る。非常に強いスモーキーな香りが特徴で、一度飲むとやみつきになる。地元では皆、袋に入った京番茶を買って使う。袋の中には落ち葉のような見た目をした茶葉が詰まっていて、開けた途端に京番茶特有の濃い匂いがする。私はこの匂いが大好きだ。

 私はほうじ茶も好きだが、ほうじ茶と京番茶の違いは強火で焙じているかどうかだ。茎茶も良いが、煎茶の方が渋みが強くて私の好みだ。最近はほうじ茶スイーツも増えてきて、コンビニやスーパーでもほうじ茶味のお菓子が食べられる。良い時代だ、とほうじ茶スイーツを買い込みながらしみじみ思う。昔はほうじ茶のお菓子は限られていたから、中村藤吉に行ってはほうじ茶ゼリーを買い、伊藤久右衛門に行ってはほうじ茶のガトーショコラを買っていた。今でも地元でお茶やお茶のスイーツを買いに行くときはどちらかの店に足を運んでしまう。特にほうじ茶は通販で取り寄せてでも伊藤久右衛門で買う。袋を開けた瞬間の、あの匂いが好きなのだ。

 ほうじ茶スイーツの勢いはどんどんと増していて、東京でも色々と買えるようになってきた。この調子で、今度は京番茶スイーツが流行って欲しいと密かに思っている。

次回更新予定日
2020-09-30

「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』がある。
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