武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第5回「創作アイデンティティ」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
リアルタイムでアニメを見たのは、
『響け!ユーフォニアム』が初。
そんな著者が影響を受けたアニメって!?

 先輩の下宿先はワンルームで、そこに七人ほどが集まった。一年生から四年生まで学年がバラバラで、さらに視聴済みの人間と初見の人間も一緒くただった。私は見終わるまでに朝から晩までかかりそうという忠告なんて気にもせず、先輩の家でDVDを見るというシチュエーションに胸を弾ませていた。だってこういうの、めちゃくちゃ大学生っぽいではないか。

 ここで『少女革命ウテナ』について説明すると、1997年にテレビ東京系列で放送されたアニメ作品だ。先ほど挙げた『輪るピングドラム』と同じく幾原邦彦監督が手掛けている。全三十九話で、映画版もある。放送から二十年以上経っても人気は衰えず、2018年、2019年には舞台化もされた。

 王子様になりたいと願っている少女・天上ウテナは一貫校である鳳学園に入学する。その学園には不思議な伝統があり、「世界を革命する力」を授ける「薔薇の花嫁」をかけて決闘を行うのだった。決闘ゲームに巻き込まれたウテナは薔薇の花嫁である姫宮アンシーと絆を育み、次第に彼女を救いたいと願うようになるのだが……というのが簡単なあらすじだ。

 この姫宮アンシー、とにかくどえらい女なのである。最初に抱いた印象は、男から好かれて女から嫌われる女、だろうか。初期の頃はちょっと野暮ったい見た目をしていて、超絶美少女としては描かれていない。しかしながら、決闘ゲームに参加するデュエリストたちは薔薇の花嫁を求めて戦う。つまり、アンシーはとにかくモテるのだ。

 嫉妬を買ってもマイペースでしたたか、その癖どこか天然で掴みどころがない。そりゃあ女子からやっかまれる。だが、そんな彼女は決闘ゲームの優勝賞品である薔薇の花嫁という役割を押し付けられているのだ。視聴者も見ている内に同情の気持ちが湧いてくる。周りの人間の都合の良いように扱われて、この子ってちょっと可哀想かもね? そう思い始めた辺りで、アンシーの得体の知れなさが徐々に露わになっていく。あのゾッとする感じが堪らない。記憶を消してもう一度見たいくらいだ。


「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』がある。

伊多波碧さん『父のおともで文楽へ』
本の妖精 夫久山徳三郎 Book.75