武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第5回「創作アイデンティティ」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
リアルタイムでアニメを見たのは、
『響け!ユーフォニアム』が初。
そんな著者が影響を受けたアニメって!?

 少女革命ウテナの舞台的映像演出と多発する不穏な隠喩がとにかく好きなのだけれど、一番強く惹きつけられたのはキャラクターの内面の見せ方だった。緩急。そう、緩急がとにかく凄いのだ。鋭いナイフの切っ先が光るみたいに、日常生活のさりげない仕草の中でキャラクターの本性がピカリと垣間見える。シチュエーションに合った台詞を紡ぎながらも、明らかに違う意味合いが込められていると伝わってくる演出。それが顕著なのが姫宮アンシーという女で、私はとにかくアンシーが何を抱えているのか知りたくなった。

 知りたいという欲求は暴力的で、だからこそ強い。「未知であること」は他人を惹きつけるキャラクター要素であると、私はあの時初めて知った。なので自分が本を書く時にもうっかりそういう仕込み方をしてしまう。こればかりはどうしようもない。創作していると自分の持つ「好き」から逃れられない。

 

 先輩は「綾乃ちゃんはウテナ見たら絶対ハマると思う!」とニコニコしていたが、あれは幼気な後輩を沼に引きずり込もうとする罠だったのだと今なら分かる。「そういえばウテナの映画が期間限定で再上映してるんやって!」と笑顔で告げる先輩を見ながら、アフターサービスまで完璧すぎるだろうと戦慄した。流石は美術サークルの女だ。

 結局私は映画も見に行ったし、DVDボックスも買ったし、展覧会にも行った。すっかりハマってしまったというわけだ。

 

 小さい頃から今に至るまで、小説も漫画もゲームもアニメも映画もドラマも舞台も、コンテンツならなんでも大好きだが、姫宮アンシー以上に夢中になるキャラにはもう二度と出会えないような気がする。彼女は私の創作アイデンティティにがっつり食い込んでしまったので、超えるとか超えないとかそういう次元の存在じゃなくなってしまった。

 そういう好きになり方をした作品は、何が起こってもその枠を他に明け渡さない。私の心の引き出しの中にはそうした特別な作品がいくつかあり、いくら新しいコンテンツに触れようと特別枠で存在感を放っている。何年経っても、作品に触れた瞬間に感じた強烈な「好き」が色褪せることはない。

 自分の書いた物語も誰かにとってそういう存在であればいいな、と私は密かに思っている。


「響け!ユーフォニアム」を語る

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愛されなくても別に『愛されなくても別に』
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どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』がある。

伊多波碧さん『父のおともで文楽へ』
本の妖精 夫久山徳三郎 Book.75