武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第8回「一緒に住める人、住めない人」

友達とルームシェアをした3年間には、
たくさんの思い出が詰まっていました。
「響け!ユーフォニアム」のアニメが放送されていた2015年、私は人生の岐路に立たされていた。そう、就職活動である。アニメ化したら専業作家で問題ないだろうという気持ちと、いやいや人生そんなに上手くいかないよという気持ちに悩みに悩まされ、私は何度も東京に足を運んでは色々な会社の人に相談させてもらっていた。
そんな中、「じゃ、私もせっかくだし東京観光する!」と言って一緒に東京と京都を行き来していたのが同じ大学の同じ学科の同じゼミに所属するNちゃんだった。単なる友達だったNちゃんとまさか3年間もルームシェアをすることになろうとは、当時の私はさっぱり思っていなかった。だが、結果として「青い春を数えて」のタイトルはNちゃんが考えてくれたものだし、「立華高校編」を書きながら弱っていた私を応援してくれたのもNちゃんだった。
私が専業作家になってからの3年間、それぞれの小説を書いていた時の記憶とNちゃんとの生活の思い出は密接に結びついている。今回は少しだけ、その思い出について書こうと思う。
そもそも、Nちゃんと私が親しくなったのは向こうが声を掛けてくれたのがきっかけだった。人見知りを爆発させていた私は、大学でも特定の友人としかほとんど話していなかった。そんな中、Nちゃんは私に気さくに話しかけてくれた。Nちゃんは当時からフリーのイラストレーターをやっていて、私と同じく個人事業主だった。大学でそういう話ができる相手は貴重だったので、私達はすぐに意気投合した。
Nちゃんの最大の特徴は声だ。とても可愛い声をしている。そして、酒癖があまりよろしくなかった(あくまで大学生の頃の話だ)。酒が入ると人恋しくなるらしく、二次会や三次会を開きたがった。甘え上手で受け入れ上手、とにかく優しい子だった。
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(講談社)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『愛されなくても別に』がある。