武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第9回「正常性バイアスうどん」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
大学の美術サークルで行った夏合宿。
幹事に就いた武田さんでしたが、
二日目の夜、ミステリーのような事件が⁉︎

 旅行会社が探してくれたのは大型の宿で、普段から団体客を受け入れているようだった。私たちは複数の和室を借り、グループに分かれて泊まった。食事は大広間でとった。

 事件が起きたのは二日目の夜だった。その日の夕食は合宿あるある的な食事で、コロッケや千切りキャベツ、味の濃い味噌汁、うどんなどが出された。合宿所のコロッケというのはどこで食べても似たような味がする。私は中学生の時の吹奏楽部での合宿を思い出し、懐かしいなぁとしみじみした。絶品とは思わないが、あれはあれで趣がある味なのだ。

 五十名あまりが同時に食事をするので、大広間にはたくさんの机が並んでいた。合宿幹事だった私は後輩や先輩と混ざって食事をしていたのだが、隣に座っていた後輩がぽつりと言った。

「このうどん、なんか味が薄くないですか?」

 どれどれ、と私もうどんを食べた。確かに味が薄い。というか、なんだかわびさび的な味がする。素朴というか、麺の素材の味がダイレクトに伝わってくるというか……。

「こういう特産品ですかね?」「石川県って名物のうどんなんてあったっけ?」「繊細な味って感じですけど」なんて皆が口々に話し始めた。

 私はもう一度うどんを啜る。美味しくはないが、これが名物だと言われたらそれはそれでアリな味だった。でもなんだろう、どこかで食べたことがある味なのだ。喉奥に小骨が引っ掛かったような違和感に、私は考え込んだ。その時、離れたテーブルに座っていた先輩の一人が立ち上がって言った。


「響け!ユーフォニアム」を語る

*武田綾乃の新刊情報*
\NEW!!/
愛されなくても別に『愛されなくても別に』
(講談社)

 
どうぞ愛をお叫びください『どうぞ愛をお叫びください』
(新潮社)

刊行記念インタビューはこちら
 

「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『愛されなくても別に』がある。

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第8回「一緒に住める人、住めない人」
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第10回「特別の作り方」