武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第9回「正常性バイアスうどん」

幹事に就いた武田さんでしたが、
二日目の夜、ミステリーのような事件が⁉︎
旅行会社が探してくれたのは大型の宿で、普段から団体客を受け入れているようだった。私たちは複数の和室を借り、グループに分かれて泊まった。食事は大広間でとった。
事件が起きたのは二日目の夜だった。その日の夕食は合宿あるある的な食事で、コロッケや千切りキャベツ、味の濃い味噌汁、うどんなどが出された。合宿所のコロッケというのはどこで食べても似たような味がする。私は中学生の時の吹奏楽部での合宿を思い出し、懐かしいなぁとしみじみした。絶品とは思わないが、あれはあれで趣がある味なのだ。
五十名あまりが同時に食事をするので、大広間にはたくさんの机が並んでいた。合宿幹事だった私は後輩や先輩と混ざって食事をしていたのだが、隣に座っていた後輩がぽつりと言った。
「このうどん、なんか味が薄くないですか?」
どれどれ、と私もうどんを食べた。確かに味が薄い。というか、なんだかわびさび的な味がする。素朴というか、麺の素材の味がダイレクトに伝わってくるというか……。
「こういう特産品ですかね?」「石川県って名物のうどんなんてあったっけ?」「繊細な味って感じですけど」なんて皆が口々に話し始めた。
私はもう一度うどんを啜る。美味しくはないが、これが名物だと言われたらそれはそれでアリな味だった。でもなんだろう、どこかで食べたことがある味なのだ。喉奥に小骨が引っ掛かったような違和感に、私は考え込んだ。その時、離れたテーブルに座っていた先輩の一人が立ち上がって言った。
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(講談社)
1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『愛されなくても別に』がある。