武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第9回「正常性バイアスうどん」

武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
大学の美術サークルで行った夏合宿。
幹事に就いた武田さんでしたが、
二日目の夜、ミステリーのような事件が⁉︎

「このうどん、めんつゆじゃなくて麦茶じゃない?」

 その途端、周囲の部員からは「あ~」なんていう感嘆の声が漏れた。出されたうどんは麦茶うどんだったのである。

 といっても、石川県の名物に麦茶うどんなる食べ物があるわけではない。麦茶うどんの原因は、食事の配膳に用いられていたやかんにあった。この宿では、学生の食事を準備する時、うどんのつゆをやかんに入れていた。そして、飲み物用の麦茶もやかんで用意していた。食事を配膳する際、うどんの入った器に汁を入れるタイミングで使用するやかんを間違ってしまったというわけだ。まさに日常に潜む謎、現実で起こったミステリーだった。

 

 うどんに関しては汁を差し替えてもらったことで事なきを得たのだが、私は内心で「このうどん、これはこれで美味しいね」などと言わなくて良かったとホッとしていた。訳知り顔で味を語っていたら、とんだ恥を掻くところだった。

 日常生活で実際にミステリーに出くわすと、意外と自分を無理に納得させてしまうんだな、というのがこの経験で私が得た教訓だ。小説に出てくるような日常の謎がもし自分の身の回りで起こったとしても、大抵の場合、気付かなかったことにしてしまうのかもしれない。それは少し勿体ないので、もしも次に麦茶うどんに出くわしたら、「これ、絶対に麦茶だよ!」と胸を張って言ってやると私は密かに決意している。


「響け!ユーフォニアム」を語る

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「おはようおかえり 京は猫日和」アーカイヴ

武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」(宝島社文庫)でデビュー。2作目となる「響け!ユーフォニアム」シリーズが累計159万部の大ヒットとなる。他の著書に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』『どうぞ愛をお叫びください』『愛されなくても別に』がある。

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