ゲスト/窪 美澄さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第1回

ゲスト/窪 美澄さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第1回

「すべての女性を応援する」をコンセプトにした書店で店長をつとめる花田菜々子さんが、気になる本の著者を招いて対談をする新連載がスタート。初回のゲスト・窪美澄さんとは「子持ちの恋愛」について語りました。


親たちの恋愛事情

花田
 新刊『ははのれんあい』、読ませていただきました。私は「はは」ではないんですけど、今交際している男性がシングルファーザーで、子供がいる人との恋愛のことでいろいろ考える立場だったのもあって、とても興味深いテーマでした! 今日は親の立場にある人が恋愛するということについていろいろ聞けたらなと思っています。


 はい、今日はよろしくお願いします。

花田
 窪さんご自身は、親という立場にある人が恋愛するということについて、どのようにお考えですか?


 シングルペアレントの人は恋愛もすごく自然なこととしてあると思うし、どんどんすればいいと思うんですけど、既婚だとトラブルも多いと思うので、できれば離婚してからのほうがいいとは思いますね。ただ、小説の世界では不倫NGとはあまり言いたくないんですよね。配偶者のいる人が恋愛をするということはありうることだから、その心の動きを否定したくないというのがまずありますね。

花田
 たしかに既婚者の恋愛といっても、この小説に出てくる智久(主人公・由紀子の夫。のちにタイ人女性カンヤラットとの浮気が発覚し離婚)の場合みたいに小さい子供がいて家族に隠しながらしている恋愛と、もうすでに家庭が崩壊していて離婚に近い状態での恋愛というのでまた全然違いますね。


 親の年齢と子供の年齢によっても全然違いますしね。

花田
 若い頃は恋愛というのが若者の特権であるように感じていましたが、今は離婚も増えているし寿命も長くなって、社会的にも中高年の恋愛が当たり前になってきました。にもかかわらず、恋愛と子供の問題についてはあまり語られていないような気がするんです。


 シングルマザーの恋愛が、継父が子供を虐待するというようなニュースばかり取り上げられると「シングルマザーなのに恋愛なんかするから」というような非難の論調に傾きがちで。そういうのではない穏やかな恋愛はもっと普通にあるのに、不倫やシングルマザーの話はみんな色をつけて語る感じがしていますね。

花田
 たしかにそうですね。


『ははのれんあい』でも、智久が悪い、という感想がすごく多くて。智久はたしかに悪いのだけど、そもそも恋って仕方がないものなんじゃないかな、っていうのが大前提としてあって。子育て中の大変な時期でも、そもそも人を好きになってしまう瞬間が人生の中にはあるんじゃないかなって。
 ただ最近は、それを言うと自分がすごく前時代の人って気がしてしまって。今は恋愛しない人が増えてるし、恋愛が多様化しているから、すぐに誰か別の人を好きになるというような肉食的な恋愛は昭和の残骸みたいな……(笑)。

花田
 智久をダメ男だと断罪するのは簡単で、それがネット上の話題なら「こいつはクズ」とコメントをつけて終わりにできるのですが、現実世界だと誰かをクズ認定したところで日々は終わらずに続いていくし、子供の親であるということも変わらないわけで。
 個人的には、離婚と再婚を経て成長する智久の変化も読み応えがありました。成長したからこそ、元の家庭の息子である智晴にも面と向かって謝罪することができる。そういうふうにしか生きられなかった姿を偽らずにさらす覚悟というか。
 不倫・離婚という「事件」にばかり目が行きがちですけど、現実を生きる当事者にとってはその後の関係性のほうが大事かもしれません。


 私くらいの年代だと、卒婚という新たな展開もあって。配偶者に愛情は全くないけれども、生活のパートナーとしていっしょに暮らしている人たちも増えてるんですよね。そうなってくると、表面上は既婚という形を取っているけど恋愛しますよという人も増えてくるんじゃないかな。だから今の時代って結婚観が揺らいでる時代だとは思いますね。

花田
 これまでずっと蓋をしていた矛盾が、ワッと表に出てきているような感じがします。

親の離婚を経験する子供たち

花田
 作中では、智久の不倫によって妻や子供は傷つくわけですが、個々の悲しみとはまた別に「不倫をしている父親が恥だ」という社会的風潮ゆえに傷つけられている面もあるのかな、と。


 それはありますね。私も両親が離婚しているのですが、やっぱり自分が子供の頃ってなかなか言えなかったですね。今はちょっと言いやすくなっているかなって。

花田
 自分のパートナーの子供たちも、シングル家庭であることをまったく気にしていないように見えます。それは時代の問題もありますが、親がそれを恥とかつらいことだと思ってるかどうかも大きいのかも。


 それはあるでしょうね。子供って親が楽しそうなのがいちばん幸せだろうという気がしていて。いろいろ大変なことはあるけど、大変な顔をしてると子供も大変さを感じ取ってしまうから。
 子育てと別に自分の人生に楽しみを見つけていくっていうのは全然アリだし、その中に恋愛が含まれてもアリじゃないかなって。

花田
 智晴が父を憎んでいるのは、母である由紀子のつらさや、夫への怒りを映し鏡のようにして育っていったからかなと感じました。


 ああ、それはですね、この本って第一子の物語だと思っていて。自分自身の経験でも、両親が離婚して自分には弟が二人いたので、やっぱり彼らの面倒を見なければならなかったり、歪みっていうのはどこかの子供にいくんだというのを書いておきたかったのもありますね。

花田
 小説の核心でもあると思うのですが、智晴が母の新しい恋人に「母を幸せにしてください」と言うシーンは、最初は複雑な気分で読んだんです、子供にそんなにまで背負わせているということに、由紀子の立場から罪悪感を感じてしまって。けれどもう一度読んでみて、やはり「この二人はこうやってお互い一生懸命やっていくしかなかったんだよな」と思えて。

花田菜々子さん
他人が家族に入っていくことで、風通しがよくなったらいいですよね。(花田)


 なるほど。あの言葉は自分からすると、智晴の母離れ宣言という感じで書いてたかな。もう一旦お母さんの面倒見るのは終わり、あとはあなたに任せますよ、と託したというか。

花田
 ああ、そうか! たしかに。


 シングルペアレントの恋愛でいちばん難しいのは子供が思春期のときかもしれないですね。

花田
 そもそも家族って恋愛して結婚した末にできるものだったりもするのに、親の恋愛の話もタブーで、子供の恋愛もときに「彼氏ができるなんて許さんぞ」的に封じ込められたりしますよね。


 日本人特有の変な照れ方がありますよね。もうちょっと子供の前でも柔らかい関係性を見せてあげてもいいのかなって気がしますけど。

花田
 窪家では母と息子のあいだで恋愛の話はオープンなんですか?


 息子がどんどんしてくるんですよ(笑)。でも、その一方で、私が元の旦那さんの悪口とかを言うと「その話はもう聞きたくない」ってすごくはっきり言っていましたね。

花田
 えーっ。大人ですね。


 そう言われて、自分の物語を子供に負わせるべきじゃないんだとはっきりわかりました。自分が元旦那が憎いとか、ずるい人だったって言うのは自分の物語なんだなと思って。彼にとってはそうじゃないわけで、彼の人生の物語を尊重するために、それ以来言わなくなりましたね。

時代とともに変わってゆく、恋愛と家族のかたち


 この小説の舞台設定は80年代頃をイメージしているのですが、今よりもっと社会的な抑圧は強くて、実際には恋愛する余裕すらなかったというところじゃないかと思います。

花田
 一方で再婚後の家族ともゆるくつながっていたり、父の不倫をなかったことにするのではなく未来へつなげていて、今の新しい家族観や恋愛観につながっている物語だとも思いました。
 もう今は核家族への幻想が終了してしまっていて、家族が閉塞しているとよくないとみんな実感していますよね。ある程度他人が入り込んだり、流動的なものであったほうがうまくいくんじゃないか、って思ってるような。


 ちょうど去年の緊急事態宣言のときくらいのことだったんだけど、うちのマンションのエントランスでずっと泣いてる男の子がいたんですよ。どうしたのって声をかけたら、お父さんに叱られて入れないって、その子がぽつぽつと語り始めて。おうちには新しいお母さんと赤ちゃんがいるからもう僕はいらないんだ、元のお母さんは隣の駅に住んでいて、会いたいけど会えないんだ、ってことを繰り返し語ってて。ああ、自分のそばでもこんな現実が転がっているんだな、って思ったんですよ。
 結局家までいっしょに行ったんですが、バタンってドアを閉められたらもうドア一枚先の地獄ってわからないじゃないですか。

花田
 コロナ禍で家族が家にいる時間が増えたことでDVや虐待が増えているという報道もありましたよね。


 家族関係が閉ざされて、悪いところが地下に潜って深くなってるなって感じがしますね。子供がそういう目に遭うっていうのはどうしても耐えられないですね。
 それに自分の場合は離婚したとき、子供には父親と会いたいときに会っていいよって伝えたけど、そうじゃない人もいるでしょうね。

花田
 DVなどがある場合は安全のために切り離すべきですが、配偶者との関係がこじれていたり、あるいは再婚を機に新しいパートナーに慣れてほしいからという理由で、元のパートナーと会わせないようにしようというケースも多いとか。子供が小さいとそれでごまかせると思うのかもしれないけど、そんな簡単に操れるものじゃない。


 家族っていう枠組みを強固なものにするんじゃなくて、なるべくゆるーくしといたほうがいいと思うんですよね。昔ってもうちょっと斜めになれる関係があって、親には言えないけどおばあちゃんには言えるとか、あのおばさんには言えるとかっていうのがすごくあったと思うんですけど。昔に戻れということではなく、男女問わず全然関係ない人間でも、そういう立場になれたらいいのになと思います。だからさっきの出来事でも、ココアぐらい出してあげるから息抜きに来なさいよ、って言えるゆるい関係を作れたらなって思いましたね。

花田
 ほんとうに。他人が家族に入っていくことで、風通しがよくなったらいいですよね。

子育てをしながら幸せな恋愛をするために


 シングルペアレントの恋愛には「家事や子育てを放棄して恋愛にうつつを抜かしている」という偏見があると思うんです。でもそもそも子育てって、毎日食事を与えて清潔な服に着替えられるくらいのラインでもいいんじゃないかと私は思ってるんですよね。

花田
 由紀子が離婚後に追い込まれていくのは、日本の福祉のひどさもありますが、やっぱり由紀子自身の完璧じゃなきゃ、という気持ちも強かったのかなと。個人差もあると思いますが、女の人のほうが合格ラインを高く設定しているように感じます。お互い小さい子供のいる中での恋愛だと、やはり同居・結婚というかたちになるのが自然だと思うので……そうなると家事の合格ラインのずれとか、困難が増えますよね。


 花田さんの本にも書かれていましたけど、サポートメンバーになるという選択が素敵な気がしたな。やっぱり家に入り込んでいってガーッと掃除し出したら、子供たちの中には女の人というのは怒りながら掃除している人という価値観が生まれるわけだし。彼らがどんな価値観を持ってどんな恋愛をするかは花田さんによって変わってくるというか。

窪美澄さん
これだけ世界が変容した今、多様な価値観にどれだけ出会ってきたかが大切──。(窪)

花田
 そんな! 責任重大ですよ(笑)。できるだけ肯定してあげよう、とか心がけてはいるのですが、そうすると今度は甘やかしすぎてダメ男にしてしまうのではないか、とか、心配が尽きないです。


(笑)。でもね、きっといい男になると思うな。やっぱり「いい男の人=いろんな価値観にさらされてきた人」だと思うんですよね。これだけ世界が変容した今は、多様な価値観にどれだけ出会ってきたかっていうことが大切で。私自身も両親の離婚を経験する中で「人にはそれぞれ事情があるし、いろんな選択肢がある」ってことを学んだから、自分の息子にもそういうふうに思ってほしいし、花田さんのところも今まさにそうなんじゃないかな?
 自分のお父さんも花田さんって人の前ではこういうふうになるんだ、って、お父さんへの新しい発見みたいなのもあるだろうし、それを吸収してすごくいい感じで育ってるんだろうなって。

花田
 わあ……ありがとうございます。


 子育てって時間切れでわかんないまま突っ走っちゃうこともあると思うんです。でも実はね、振り返って謝ることもできるんですよね。あのとき、あなたの気持ちをわかってあげられなくてごめんねって。だから追いかけてそう言えるってことをわかってたら、間違っても大丈夫、って、気が楽になるんじゃないかな。

花田
 間違ってもいいんだよ、なんてことはいくらでも言われているはずなのに、やっぱり……実際に取り組むと100点でなければって思ってしまって。


 多様な価値観に触れるという意味でも、親の恋愛もね、ないよりあったほうがいいのかもしれない。

花田
 親も自分の幸せを考えていい、と思う一方で、恋愛に夢中になって子供が見えなくなってしまうパターンもあるのかもしれないですよね。それを思うと、恋愛いいじゃない、と手放しでは言い切れないのかな。


 やっぱり難しいのは家に入れるタイミングですよね。子供にとっては、親が恋愛しているかどうかということ自体よりは、その恋人が家に来る関係なのかどうかというところが大きな分かれ目な気がして。海外ドラマなんかだと、シングルマザーはよく恋愛をしているけど、夜に家に来て子供が起きる前に帰らせたりしていて、その人が継父になるところまでは性的な関係があることを絶対見せないんですよね。だから、そういうキッパリとした線を引くのも、場合によっては必要かもしれないですよね。日本の住宅事情だと難しいかもしれないけど。
 でも家に入れるタイミングでは、この人はどういう人って少なくとも説明するべきかな。いきなりぬるんと入ってくるのって、ちょっと怖かったりするじゃないですか。

花田
 そこが照れ半分でないがしろにされそうな感じはありますよね。何かよくわからんけどいる、みたいなのはよくないと思う。その子供が「自分が尊重されている」って思えたらいいですよね。


 それですよ、それです。

花田
「今からこういう人来るけど、嫌だったら言ってね」とかでもいいし、「○○ちゃんと一緒にごはん食べたい、って来てくれるんだよ」みたいなやりとりがあるだけでも違いますよね。あと、親が「聞いてくれるなよ」みたいな空気じゃなくて、子供がそのことについて話しやすい雰囲気だったらいいですよね。おしゃべりするように話し合えたら。


 子供ってわかってますから、意外と。言葉を尽くすとわかる。で、言葉を尽くしてわからなくても、言葉を尽くしてくれたって大人のことを汲んでくれると思うんですよね。聞く権利もあるし。

花田
 そういうところから始めていくっていうのが、子供がいる状態での恋愛をうまく続けていくコツなのかもしれないですね。今日はたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


ははのれんあい

『ははのれんあい』
角川書店


窪 美澄(くぼ・みすみ)
1965年東京都生まれ。2009年『ミクマリ』で女による女のためのR‐18文学賞大賞受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で11年に山本周五郎賞受賞。19年『トリニティ』で第36回織田作之助賞受賞。他の著書に『たおやかに輪をえがいて』『私は女になりたい』など。

(撮影/黒石あみ)
〈「STORY BOX」2021年6月号掲載〉

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