ゲスト/吉田貴司さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第15回

ゲスト/吉田貴司さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第15回
  今月のモヤ  
成就しなかった恋愛

 
〝成就しなかった〟恋愛は、苦い黒歴史であれ甘美な体験であれ、すべての人にとって忘れられない記憶となっているはずだ。若かった当時は不可解に思えた異性の思わせぶりな態度や急な心変わりの理由が、年齢を重ねたことで見えてくることもあるし、永遠に理解できないこともある。男たち(たまに女たち)の「あのときこうしていたら」を10年聞き続け、漫画にしている吉田貴司さんと、恋愛においての「あのとき」の真実を探ってみた。


他者の恋愛エピソードを描き続ける理由

花田
 吉田さんの代表作とも言える『やれたかも委員会』、連載初期からずっと読ませていただいています。男女の恋愛やセックスを扱った作品は互いの勝手な願望が描かれがちなので、面白いと感じるポイントに性差が生じがちですが、この作品はどちらの性でも同じように楽しんで読めるところがすごいなあと感じています。それから吉田さんの作品の中では「男はこういうもの」とか「女はこうあるべき」というような決めつけがまったくないので、そういうところも読んでいて心地いい理由なのかなと思いました。

吉田
 ありがとうございます。実際に読者の方からエピソードを送ってもらって、気になった部分はメールで聞いてという感じで、なるべく創作を入れずに聞いたままを描くようにしているのがうまくいっているのかもしれません。送られてきたエピソードが破綻していたり変だなと思う部分があっても、ツッコミを入れずに、とにかくよく読む、あるいはよく聞くようにしています。

花田
 作中でも審査員の3人が気怠そうに話を聞く構図になっているわけですが、語り手の破綻や自己陶酔があっても、3人が冷静に締めていくから読みやすいのかもしれないです。

吉田
 そうですね。無視ではないけれど、分析したり、神輿に乗せて持ち上げたりはしない。何でもない、あくまでしょうもない話として聞くくらいがすわりがいいのかなと思っています。

花田
 このような「恋愛の失敗」と言えるエピソードを長期間作品にし続けているのは、どうしてですか。やはりご自身が若い頃にうまくいかなかった体験をたくさんされてきて、今でもわだかまりが残っていらっしゃるのでしょうか。

吉田
 僕は今、42歳なのですが、今回の対談を機に振り返って、この作品を描き始めたのが2013年だと改めて知り、愕然としました。もう10年もこんなことをやってるのか、バカじゃねえか? と(笑)。
 でもこの作品には自分の30代が詰まっていると思います。20代は右も左もわからない漂流時代で、なんで俺は誰からも相手にされないのか? と思い悩んでいました。30代になって脳みそが少しずつよくなってだんだんこの世界の全体が見えてきたときに、じゃああのときのあれはなんだったのか? と20代の頃のできごとを振り返るようになった。それがこの作品を描き始めたきっかけだと思います。

花田
 相手の気持ちがわからない、相手があのときほんとうはどう思っていたのか知りたい、という作品の核の部分はそこから生まれているんですね。

吉田
 こんなことを言ったら異常だと思われるかもしれませんが、当時はバイト帰りに女子といっしょになるときや、男女混合のただの飲み会でも、どんなときでも常に「何か」が起きるのではないかと期待していましたね。そういう若者でした。今考えると結構ヤバい奴だったかもしれません。

『やれたかも委員会』より
©吉田貴司『やれたかも委員会』2巻

花田
 何か、というのはつまり性的なことですよね。そうすると、実際には期待していたことは起こらず、何もないまま終わることが多いわけですよね?

吉田
 そうですね。なので次はもっとこうしたらいいんじゃないかという対策を自分の中で練ったりするんですが、そんなのは自分勝手な世界の話なので、余計世の中とのズレが出てきて、ついには奇行に走ったり、そのおかげでみんながさあーっと引いてしまったりということもありました(笑)。空回りの多い人生でした。

花田
 当時の自分への後悔や反省が原動力になっているんですか?

吉田
 反省もありますし、この漫画を描きながら自分自身が勉強しているという面もあります。エピソードを読みながら「ああ、わかるなあ」と同化して描いているうちに、「じゃあ、あのときのあの子の気持ちもこうだったのかもしれない」と考えたり。描いている自分がほんとうにいちばん勉強させてもらっていると思います。漫画に描いてみて初めてわかることは多いです。

相手が何を考えていたのかを知りたい

花田
『やれたかも委員会』は、一人の男性(ときどき女性)が審査員3人のいる部屋を訪れ、自分自身の成就しなかった恋愛のエピソードを語り、3人がそれぞれ「やれた」「やれたとは言えない」どちらかの札を挙げて判定するシステムです。そしてほぼすべての回で男性審査員2名が「やれた」を挙げ、唯一の女性審査員の月満子が「やれたとは言えない」を挙げて辛辣なコメントをするのがお決まりとなっていますよね。私自身も月満子に近い視点で作品を楽しんでいます。

吉田
 月満子視点で読むと、どういう点が面白いんですか。男子たちが滑稽だなと思って読むわけですか。

花田
 上から目線で滑稽さを笑っているわけではなく、もっと自分ごととして読んでいます。童貞男子のこともかつての自分だと共感しているし、その一方で相手側にも共感しています。若い頃、自分に好意を向けてくれた男子たちも自分に一方的に期待して、一方的に盛り上がって、一方的に傷ついたと言って被害者の顔をしてきたりしたなあとも思うんです。そういう既視感というか。

吉田
 たとえば作品の中で、みんながいる鍋パーティーで女子が急にそっと手を重ねたりしてきて、男がドキドキする、みたいなシーンはどう読んでいるんですか。男をかわいらしいなと思うのか、それとも男はそんなことでドキドキするものなのか、という驚きなのか。

花田
 いえ、女側は「やらせる」気もないのに確信犯でやっているのだと思うので、自分も過去にそういうことをしていたかもしれないと反省しながら読んでいます。

吉田
 当時の記憶を思い起こして読んでいるんですね。たとえば鍋パーティーでの女子の行動は、あれはどういう意味だったと花田さんは思いますか。

『やれたかも委員会』より
©吉田貴司『やれたかも委員会』1巻

花田
「女子はこちらの反応を面白がって弄んでいるのか?」という疑問を男性側からたまに聞きますが、ほとんどの場合は女子側にもそんな余裕はなく、自己肯定感が低くて承認欲求を満たすためか、あるいは自分の商品価値を確認したかったり、自分の気持ちがわからなかったりして必死だったのではないでしょうか。

吉田
 はぁ〜、そういうことなのかー。そういう気持ちも今ならわかります。しかし20代の頃はまったくわかりませんでした。僕個人の体験を思い返してみても、突然急接近してきて興味を持たれたり、「遊びに行こうよ」と言われたりして付き合えるのかと思ったらある日突然冷たくなる。あるいは連絡がこなくなる。そんなことも多かったですね。

花田
 若さゆえの傲慢さだったと思います。

吉田
 そうか、やっぱり傲慢さなのかな。

花田
 傲慢さというか、やっぱりお互いに相手には自分の完璧な理解者であることを求めて、相手の気持ちが揺れたり傷つくということをあまりイメージできていなかったのではと思います。作中の主人公たちは「なぜやれなかったのか、何が決定的なNGだったのか」と思い悩むじゃないですか。でももし相手の女性に今インタビューしたとしても、答えは「覚えてない」か「何となく」になるのではないですか。

吉田
 そうだと思う。2巻の最後に収録している回で、数年後に会ってその夜のことを答え合わせする男女を描いたんですよ。

花田
 いっしょのベッドに入るところまでは行って、男性が「好きです」ときちんと告白してからセックスをしようとしたところを振られたエピソードですね。

吉田
 男性が「あのとき告白してなかったらセックスしていたと思うか?」と聞いたのに対して、女性が「どっちでもよかったかな」と答えるんです。そのエピソードを読んだときに、そんなわけがある!? と、ハンマーで殴られたような衝撃を受けました。これはものすごく勉強になりました。女の人の気持ちを学ぶ学問の教科書があったらここは絶対太字です(笑)。「どっちでもよかったんだ」と。

『やれたかも委員会』より
©吉田貴司『やれたかも委員会』2巻

花田
 難しいですね。女の人も優しかったのかあるいは面倒くさかったのか(笑)、告白を受けてセックスをするのはちょっと重かったということですよね。何となくやってしまった、くらいのほうがよかったということだったのか。いずれにせよ、彼を重要視していなかったことははっきりわかります。まあそこからうまくいく関係もあるので何とも言えませんが……。

吉田
 でも、相手のことを好きだったらずっと考えてしまうわけじゃないですか。あれがよくなかったのかな、これがよくなかったのかな、って。それって女の人に聞いても絶対教えてくれないじゃないですか。

花田
(笑)。男の人も教えてくれないですよ。女の場合は「やってしまった委員会」もあります。やっと一晩を共にして彼女になれるのかと思ったのに、いきなり男が冷たくなる、というのも女側の「あるある」ですよね。理由はわからないままですが、まあ「さめた」ということですよね。

吉田
 そうか、男も言わないか。そうかもしれないですね。何か悲しい気持ちになってきました。

花田
 自分は悪い意味で大人になってしまって、「そういうものだ」と現実を受け入れていました。それも随分昔のことですが。吉田さんにとってはその悲しみはまだフレッシュなんですね。

吉田
 これは『やれたかも委員会』の最終話で書こうとしているのですが、たとえば僕がこう、今、水を飲むとして、でも水を飲むことに意味はない。人ってこれをしようとかいちいち決定して生きているわけではないんだなと思って。人間は理屈で生きていないから、あのときあの子が帰っちゃったのも、何となく、雨が降ったとかペットが心配だったとか占いが悪かったとか、そんな理由だったりもすると思うんです。
 でも想いが叶わなかった側は相手の「何となく」に対して無理やり理屈を持ち込んで考えようとするんですよね。人は何となく生きているのに、振り返る過去に対しては、「人生全体には意味が欲しい」と考えてしまう、みたいな。そういうラストにしたいなと考えています。まあここで言っちゃったのでそうしないかもしれませんが(笑)。

花田
 それはそうですね。人生全体が「何となく」なのは悲しいです。連載が終わってしまうのは寂しいですが、どんなラストになるのか見届けたいです。

炎上を経験して、フェミニズムについて思うこと

花田
 吉田さんが作中で取り上げるお話は2000年前後の回想が多いですよね。その頃は今よりももっと恋愛やセックスが「しなければならないもの」だったと思うのですが、世の中の変化について何か思うことはありますか?

吉田
 どうなんでしょうか。なるべくいただいたエピソードに向き合うようにしていて、それってとても個人的な作業なので、あまり時代の変化のことは考えていないですね。女の人についてもそうですが、恋愛とか男女の駆け引きみたいなことも「ああ、このパターンか」と理解できてしまったらもうリアルな気持ちが描けなくなってしまうと思うので、そうなりたくないと思っています。でもずっと無知のままではいられないですし、そのあたりが悩みどころですね。
 なので世の中の変化や例えばフェミニズムについてはあんまり作品には反映させないようにしています。
 ですが去年、おととしあたりでフェミニズム系の炎上が活発になっているのも聞こえてくるし、そういう意味では時代は変わってるんだなと思います。で、そういう動きの中で花田さんはけっこうフェミニズムに詳しい方だから、もしかしたら今日怒られるのかなと実は思ったりしていました(笑)。でも以前「クイック・ジャパン」の記事でレビューを書いていただいたのを読んでいたので、まだこっち寄りなのかな? とか。
 そのあたりはどう思われているんですか。フェミニズムにめちゃくちゃ興味があるけど、それも好きだしこっちも好き、という感じなんでしょうか。

吉田貴司さん

花田
 吉田さんの作品もとてもフェミニズム的だと思います。私は基本的にフェミニズムは自分にとっても社会にとってもいいものだと思いますが、特にSNSで見られるような炎上案件のすべてに賛同しているわけではないです。きっと外から見るとひとつの大きな集団のように見えているんですよね。そんなことはまったくないですよ。個人的には昔から女の人よりも男の人と話しているほうがラクだし好きなので、男やエロが敵という気持ちが他のフェミニストの方より薄いのも関係あるかもしれないですね。吉田さんはフェミニズムをあまり意識していないのに、そこをパスするような視点を独学で手に入れているのが面白いです。

吉田
 いや、いちばん最初にけっこう炎上しましたよ。

花田
 それは知りませんでした。何が原因だったんですか。

吉田
『やれたかも委員会』というタイトルがもうダメで、男が女をやれるかやれないかで見るということ自体が許せないと言われて怒られました。まあ結局それを言っている人は中身を読んでいない人だったので、それが「読んでない人発見器」的な感じだったんですが。

花田
「読んでないのに文句を言う人発見器」ですね。でも攻撃の標的になってしまったんですね。

吉田
 僕はこの炎上のときまでフェミニズムというものの存在自体を知らなかったんです。だからそこでフェミニズムってものがあるんだーと思って調べたりしてたんですが、ある程度の段階までいって手を引きました。やっぱり読者は漫画で正論を読みたくないと思うので、正しくなり過ぎてもダメだと思って。そういうこともあって世の中の動きとかそういうものではなく、あったことをそのまま描くことに注力するようになったのかもしれません。

花田
 なるほど。いいことかどうかわかりませんが、自分はあまりSNSの論争には参加しないようにしているので、吉田さんのタイトルに文句を言っている人を見かけたとしても反論をあえて書くということはしないかもしれないです。でもそういうご経験があると、やっぱりフェミニズムというもの全体に対してあまりいいイメージを持てないですよね。

吉田
 正直いいイメージは持ってないですね。距離はとっておきたいなと思います。今日も怒られる覚悟で来ましたし……。

花田
 そんな覚悟で……ありがとうございます。もちろんフェミニストの中には吉田さんの作品に問題があると感じる人もいるのかもしれないですが、自分はそうは思わないですね。たしかに「あの女やれそう」だと蔑視の気配があるんですが、吉田さんの『やれたかも』には性差もないし、蔑視の感覚がまったくないように感じます。

吉田
 そうですね。「あの女はやれそうだ」って言っているような人は僕のところに絶対メールをよこさないんじゃないですかね。そんなことないのか。でもまあ間違ったり正しかったりするのが人間だと思うので、どちらかに偏りたくないなと思っています。

若い頃の恋愛を語るのはノスタルジー?

花田
 炎上関連の話が続いてしまうのですが、去年末に「POPEYE」という大人の男性向けの雑誌で「ガールフレンド特集」というものがあったときにその表紙の女の子があまりに幼すぎるということで少し炎上があったのですが、ご存じですか?

吉田
 いや、全然知らなかったです。

花田
 その炎上について話したいわけではなくて、そのときに思ったのが、『やれたかも』もノスタルジーの話でもあるということなんです。近年ヒットした燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』やカツセマサヒコさんの『明け方の若者たち』も、中年男性が青春時代の恋愛を振り返る構図になっていたのが気になりました。つまり、「POPEYE」の表紙も40代の男性が10代の女子をときめいて見ているのではなく、自分が10代に戻ることでしかそのときめきを得られないのではないかと感じたんです。中年男性が、今、現在の恋愛をあの頃のような爽やかさやほろ苦さで語ることは無理なのか? というのを吉田さんにぜひ聞いてみたいと思っていました。

吉田
 うーん。やっぱり男性の欲望を追求していくと、反社会的にならざるを得ない部分があるんだと思います。恋愛でも、男性が若い女性を追い求める傾向を突き詰めていくとロリコンとか言われて条例に引っかかりそうな話になるけど、女性の欲望をめちゃくちゃ追求しても反社会的にはなりにくい。「an・an」の SEX 特集は男が見たら「なんじゃそら」って思うけど、少なくとも反社会的ではない。そういう面もあって現在形で描きにくいのかもしれないですね。

花田
 たとえば、40代同士のピュアで爽やかな恋愛漫画っていうのはやっぱり難しいのかな。そもそも誰も興味がないということなのか……。中年男性は「40代の今、新たな恋愛があるかも」という妄想より、10代の恋愛を懐かしむほうが心地よいんですかね。中年男性ももう少し中年女性のよさを「お色気ムンムンの熟女」みたいなアダルトワードではないフラットさで見出してくれたらいいのに、とも思うのですが、逆にじゃあ私たち中年女性が中年男性の魅力をきちんと語っているかというと、やってないかも。

花田菜々子さん

吉田
 中年男性なんか今はフルボッコじゃないですか? 魅力とは対極のワードで語られていると思います。もう、息してないですよ(笑)。

花田
 たしかにその問題もありますね。中年男性へのオーバーキルというか、外見へのからかいを含め、辛辣な言葉を投げつけてもいいという風潮はまだ強いかも知れません。そうなると、女の人に嫌われているんだから恋愛なんて無理、雑誌の少女特集でも読もう、そしてその特集が炎上、という悪循環が起きてしまいますよね。もちろん40代の人が恋愛しなくてもまったく問題ないんですが。

吉田
 でも、悲しいけど、その地位のほうが楽っていうのもありますよね。

花田
 ああ、自分は参加しないということですか。

吉田
 そう。参加しなくてバカにされたり無視されている方が、楽といえば楽です。

花田
 女性も同じことかもしれません。若いときは恋愛の機会が多かった人も少なかった人も、常に男性から一方的につけられる点数を気にして生きなければならなかった。仮に魅力を見出してもらってもそれは年齢とともに消えていくものだということが当時から怖かったです。なので、そこから解放されてうれしいと感じているのは自分だけではないみたいです。

吉田
 なるほど。それも何となくわかりますね……。
 あの、僕はいろいろな人から体験談のメールをいただくんですが、ただ、それがすぐに描けないことも多くて、作品にしたり本が出るまでにけっこう時間がかかってしまうこともあるんですね。こないだ久々に単行本が出て、本を送らせてもらおうと連絡を取ると、みんなメールをくれたときと住所が変わっていたり、結婚していたり、あるいは離婚して再婚していたり、「『やれたかも』? そんなこともありましたね。懐かしいですね」って感じで、状況が変わっていたりするんですよ。
 すごく……ああ、こんなことがあった人がもうこうなったんだなあとか、その人の人生の変化が感慨深い。みんな幸せになっちゃって、とか思ったりして、そういうのがうれしいですね。

『やれたかも委員会』より
©吉田貴司『やれたかも委員会』1巻

花田
 いい話ですね。吉田さんだけピーターパンみたいに大人にならないまま、大人になっていく人たちを見送っているような……。

吉田
 そういう呪いをかけられている感じはあります(笑)。

花田
 20歳くらいまでの、とにかく苦しくてつらくてのたうち回るような恋愛の季節は、思っているよりも短いのかもしれないですね。もし今も恋愛していたとしても、あの頃を思い出して語りたくなるのかな。それは自分が思っていたようなノスタルジーとはまた違うものなのかもしれないです。

吉田さんに本を一冊おすすめするなら

花田
 吉田さんは私の書いた『であすす』をもともと読んでくださっていたんですね。それで事前のメールで「本を一冊すすめてほしい」とリクエストをくださって、ありがとうございました。すすめさせていただけるなんてうれしいです。

吉田
 僕も人の話を聞いて描いているので、花田さんがしていた「知らない人の話を聞いて本をすすめる」ということと共通項があるように感じました。話を聞くというのはとても大事だと思うんです。それこそ昨今の炎上にはそういう視点が欠けていますよね。一度炎上したら何も話を聞いてもらえなくなる。

花田
 たしかに、数秒で読んで反射で書き込んでいるような人も多いように感じます。そういう人は相手の話を聞こうとはしていないように見えますね。

吉田
 こういう場合は前もって考えてくださるんですか。それとも今日の話の流れから即興で選んでくださるんですか。

花田
 吉田さんの場合は作品を通してご自身の人柄を少し知っているとも言えますし、今日話を聞く中でさらに「あ、やっぱりこっちかな」「この本もいいかも」とあれこれ考えていました。お会いしてみて、吉田さんは「俺が俺が」と自己主張するというよりは、他者を受け止めていくタイプなんだなとわかりました。それでおすすめしたいなと思ったのが、友人の本になってしまうのですが、清田隆之さんという男性のフェミニストの本です。読まれたことはありますか?

吉田
 お名前を聞いたことはあるのですが、読んだことはないです。

花田
 清田さんも吉田さんと同じように、知らない人の恋愛話を聞く活動を長くやっているという共通点もあり、「男性のどうしようもなさ」みたいなものを長らく見つめているのですが、お二人の指向は少し異なっていると感じたのでぜひ読んでほしいなと思ったんです。清田さんもみっともない自分を語ることがとても上手なので、吉田さんの作品とも繋がりますし、あまり強い言葉で「男はこうすべき」と主張するような人ではないんです。だから吉田さんが感じているフェミニズムへのネガティブな印象を少し拭えるかもしれないと思いました。

吉田
 僕としては、何て言ったらいいのかな……遠ざけている人ではあるんですよ。

花田
 あ、やっぱり(笑)。

吉田
 なので知ってはいたのですが読んでいないんです。どうなのかなって怪しんでいて。

花田
 警戒しているんですね。

吉田
 僕は女性の気持ちがわかるような人間ではないんです。だからこれはむちゃくちゃあまのじゃくだと思うんですけど、女性のことをわかっている人になるのはちょっと嫌だなーと思っていて。清田さんは、わかっているというか、勉強して反省している人というイメージを勝手に持ってしまっています。

花田
 そういう面はあると思います。

吉田
 そこに行くのは嫌なんですよ、僕は。そこに入れないでくれ、と思います。「わかってるね」と女性から褒められる人になりたくないというか。女の人に怒られていたい、という……甘えがあるんですかね。でもせっかく紹介していただいたので読んでみます。一番のおすすめのタイトルは何でしょうか。

花田
 そうですね、『さよなら、俺たち』がいちばん清田さんの生の語りがあって、吉田さんが読むのにいいと思います。でも、読んだら吉田さんの考えが変わるはずとか、よくなるはず、と思ってすすめているわけではないし、どう読むのか聞いてみたい、という感じです。「女性の気持ちを理解した」と言う必要はなくて、清田さんもわかったとは言っていないです。「自分と違う他者がいて、その人が何かを言っている」という態度だと思うんです。なのでやっぱり、吉田さんといっしょなんじゃないかな?

吉田
 花田さんにすすめられなかったら多分ずっと読まずにいたと思うので、今回思い切ってお願いしてみてよかったです。

花田
 はい、もし読んでくださったらぜひ感想を聞かせてください。


やれたかも委員会(1巻)

『やれたかも委員会』
双葉社

もしもあの時、勇気を出していたら……。そんな誰もが心に秘めている忘れられない夜を犠星塾塾長・能島明、ミュージシャン・パラディソ、財団法人ミックステープ代表・月満子が判定!切なくも愛しいノンフィクション的漫画。現在5巻まで発売中。


 
吉田貴司(よしだ・たかし)
1980年大阪府生まれ。2006年「弾けないギターを弾くんだぜ」でデビュー。著書に『フィンランド・サガ(性)』(講談社)、『シェアバディ』(作画:高良百/小学館)など。16年『やれたかも委員会』がネットで話題に。『中高一貫!! 笹塚高校コスメ部!!』(小学館)の2巻が発売中。

(構成/花田菜々子 撮影/横田紋子)
〈「STORY BOX」2022年8月号掲載〉

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