ゲスト/ツレヅレハナコさん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第17回

それでも、わたしたちは食べる
コロナ禍でがらりと変わった、わたしたちの食生活。外食が制限され、孤食や黙食が推奨され、〝マスク会食〟なる新しいマナーまで生まれた。以前のように大勢でワイワイと食事を囲むことは難しくなったけれど、嘆いてばかりはいられない。苦境に立たされている飲食店も、良い店ほどタフに挑戦を続けているとツレヅレハナコさんは言う。〝美味しいものの伝道師〟から、どんな状況でも毎日を貪欲に楽しむ秘訣を聞きました。
レシピではなく考え方を紹介したい
花田
今年の2月まで HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE という書店で働いていたのですが、30代以上の、ご自分の人生を楽しまれている印象の女性客がとても多い店だったんですね。土地柄もあって、宝塚や演劇のファンの方がよくいらっしゃっていました。そこでツレヅレさんの本がとてもよく売れていたことがきっかけで、ツレヅレさんのファンになりました。
ツレヅレさんの著作では、「時短」や「健康」というキーワードよりは、とにかく楽しむことを重視されているように感じます。ご自身としてはご著書や読者の方をどのように捉えていらっしゃいますか?
ツレヅレ
料理教室などのイベントを通じて実際に読者の方とお会いすることもあるのですが、まず私の読者の99%が30〜50代くらいの女性で、みんな物怖じせずひとりで参加するし、食べることと飲むことが好きで、フットワークが軽くて、コミュニケーション能力がとても高い。初対面なのにあっという間に意気投合して、イベントの後にさっそくみんなで飲みに行ったりしているみたい(笑)。私の本の読者って、なんだかそういう方たちばかりなんです。
花田
その様子がありありと目に浮かぶようです。なぜこのような楽しさ重視の方向性で本を執筆されるようになったのですか?
ツレヅレ
私自身はもともと本業として雑誌の編集を15年ほどやっていましたが、その傍らで、個人でホームページが作れるようになった初期の時代からずっと好きなことを書いてネット上にアップしていました。それがその後はブログに移り、今はインスタグラムでの発信が中心です。でも、今も昔も、基本的にはずっと好きなことや興味があることをひたすら書いているんです。本もこれまでに10冊以上出版していますが、レシピ本を出しているという感覚はなくて、自分が紹介したいことを書いているだけなんですよ。
花田
なるほど。料理家を目指していたというわけでもなく、自然な流れというか。たしかに、これまでの著作でも揚げ物だったり、ホームパーティーだったり、レシピを伝えるというよりは「こんなふうにやってみたら楽しいよ」という提案ですね。
ツレヅレ
みんなが「大変そう」とか「難しそう」って思っていることでも、考え方を変えればすごく楽しいし、それがあると人生が豊かになるからみんなもやったほうがいいよ、という《紹介》をしたいんです。その結果としてレシピがついているだけ。その考え方のほうを紹介したいという気持ちは一貫して変わってないです。これは本業が雑誌の編集者だったことも関係あるのかもしれないですね。
花田
今回出版された『まいにち酒ごはん日記』は2018年から2021年までの3年間のインスタグラムをまとめた本ですね。ですが、まずページを開いただけで写真のビジュアルも含めてワクワクします。それだけではなく文章の読みごたえもありますし、かつ、とても見やすいし読みやすい。
ツレヅレ
インスタグラムの投稿は、雑誌の原稿などとは違って、とにかく自由に書きたいように書けるもの。だからその楽しさが伝わる本にできればと考えました。インスタは気がついたらこれまでに1万以上投稿をしていて自分でもびっくりしましたが、書くことがほんとうに楽しいんです。子どもの頃からなんですけど、とにかく人におすすめすることが好きなんですよ。何の根拠もないけど「これはいいからやってみて」「絶対おいしいから食べてみて」ってずっと言ってる。幼稚園のとき、私が気に入ったぬりえがあって、同じクラスの子たちにおすすめしまくっていたら最終的に園全体で購入することが決まったくらい(笑)。
花田
すごい、幼稚園児にして組織を動かしてる。プレゼンが生業なんですね。
外食大好き人間はコロナ禍をどう生きたか
花田
それにしても、2019年までと2020年以降では生活が一変してしまいましたが、日記形式だとそれがより一層色濃く伝わるような気がしました。特に毎日のように飲みに行ったりおいしいものを食べたり、国内や海外のあちこちに出かけていらしたツレヅレさんとしては、この変化をどのように感じていましたか。
ツレヅレ
それを狙っていたわけではないのですが、社会全体が激動の3年間でしたからね。この日々を記録として本に残せたのはよかったと思います。
それまでは自分でもずっとコロナ禍以前のような生活が続いていくものだと思っていたので、先のことは誰にもわからないんだな、というのを強く感じました。ただ、コロナ禍の初期は先の見えない不安を感じていただけでしたが、ずっと家にいることで自分を見つめ直したり、それまでの自分だったらやらなかったようなことをやるきっかけになりました。それまでは全く興味のなかったビーチアクティビティーに目覚めたり、スポーツ観戦を始めたり。
花田
SNSで2年前の投稿を見て振り返るというのは難しいので、こういった役目は紙媒体の強さでもありますよね。私もそうですが、コロナ禍でライフスタイルが変わったことで新しい趣味を見つけたり、価値観が変わったという人はほんとうに多いですよね。
ツレヅレ
それまでも沖縄は大好きだったんですが、飲むことばかりで(笑)。現地の人から呆れられるくらい海に入ることに興味がなかったんです。でも長期滞在して海に通うくらい海が好きになってしまった。ほんとうに人って何歳になっても変わるんですよね。私は今46歳なのですが、そういうことがまだまだあると思うと楽しいです。
花田
世界中がコロナに見舞われたばかりの頃は誰でも不安や恐怖が前面に出ていたと思うんですが、そこからの立ち上がり方にそれぞれの個性がありますよね。新しい条件に順応していったり、あるいは順応できない自分を発見したり。その変化や気づきというのは興味深い体験だったなあと思います。
ツレヅレ
いちばんわかりやすく大変な思いをしていたのが飲食店ですよね。もともとお店に行って食べることや飲むことが大好きだったので飲食店の打撃は自分にとっても身近でした。自分が行けないこともつらいし、知っているお店が危機的状況だったり。それは経済的なことはもちろんなんですが、それよりも飲食店の方のメンタルが弱っているなというのをとても感じました。
花田
ああ、なるほど。経済的な問題をどうにかすれば済むということでもないですね。
ツレヅレ
取材で関わったことのある、農家の方、漁業関係など生産者の方もそうですね。お店が動かなくなって出荷が止まってしまっていたから。だから何かできればという気持ちでとにかく取り寄せやテイクアウトをしていたのですが、その際にお店の方とお話すると、やっぱりシェフや料理人の人って「皿に盛りたい」って言うんですよ。要は目の前で提供して、食べてほしいんですね。そんな話をもう何万回もしたように思います。
花田
同じように大きなダメージを食らった音楽や演劇などのエンターテインメントでも「その場に共にいること」の大切さが声高に叫ばれていましたが、飲食店もライブのよさなんですよね。あれから2年経って、コロナ禍は収まってはいませんが一斉休業などはなくなって、みなさん少しずつ元気になられている印象ですか。
ツレヅレ
そうですね。でも、いい店ってやっぱりタフなんですよ。だからもちろん打撃を受けたときはそれなりに大変だったと思うんですけど、料理人なりオーナーなりが、その状況で自分たちができることがないかというのを考えて動いていらっしゃるなと思いました。もちろん私たちが少しは助けることができるかもしれないけど、結局は自分でやるしかないから。だからそういう意味ではみんな強いなと感じました。やり方を変える。考え方を変える。なるようにしかならないと諦めるのではなく、何か考える。私の好きなお店にはそういう人が多かったです。
花田
メディアだと、ある種わかりやすい「こんなに大変です」、あるいは「大変だけどがんばっています」というような画一的な見え方になりがちな部分もあると思うんです。もちろんそれも伝えてほしい大事な情報ではあるのですが、そういう画角に収まらないニュアンスの部分というのはあるのだろうなと思います。
ツレヅレ
そうでしょうね。特に私がよく行くところは個人事業主の店が多いから、どうするか本人たちしか決められないし、その状況で何をするかというのはお店によってけっこう個性が違って、こう言ってしまうとあれですが面白かったですね。
例えば、浅草橋にある「ジョンティ」というアルザス料理の専門店は、オーナーがなかなかクセのある人で食べログなんかだとボロクソに書かれていたりするのですが(笑)、コロナ真っ最中の頃に「じょん亭」なんて言って突然お持ち帰り用の居酒屋メニューを出し始めた。突然どうしちゃったんですか、って聞いたら「俺たちは協力金をもらってるからいいけど卸の人には金が行っていないんだ、だから俺たちが買わないとあの人たちが大変なんだ。それと……実は居酒屋をちょっとやってみたかったんだ」なんて言ってて。で、そのモツ煮がとんでもなくおいしかったりして。
花田
すごいな。いいですね。
ツレヅレ
むしろその状況を楽しんでる。
花田
そういう方たちの苦境を「楽しくやってるならよかったよ」と言えるような状況ではないと思うのですが、でもそういうところに店の魅力、店主のチャーミングさみたいなものが立ち現れている気がします。
ツレヅレ
そうそう。この前ひさびさに行ったら満席ですごい盛り上がってて、「戻ってよかったですね」って言ったら「忙しすぎて、ふざけるなって感じだよ」ってなぜか怒ってましたけど(笑)。でもかっこいい店なんです。
花田
個人店というか「店」のいいところって、そういう、教科書的でないかっこいいふるまいに宿りますね。
うまいもの好き・ツレヅレハナコを作った本たち
花田
本書でも少し触れられていましたが、幼少の頃から「なだ万」にご家族で通い、まず料理の姿をきちんと見ることや、なぜこれが今の時季に出てくるのか、何が旬なのか、そういうことを考えながら食べろと「食の英才教育」を受けてこられたんですね。衝撃でしたが、今のツレヅレさんの書かれるものを思うと納得でした。どんなふうにして現在の「ツレヅレハナコ」が完成したのでしょうか。
ツレヅレ
両親とも食に関わる仕事をしていたわけではないですが、二人ともかなり個性的な人たちだったし、食べることをとても大事にしていました。父はエンジニアで海外赴任が多く、子どもの頃からアジアの屋台でごはんを食べることがごく普通の家だったんですよ。
花田
すごい。うらやましいです。
ツレヅレ
家族の記念日には赤坂にあった「東京ジョーズ」という、今にして思えばずいぶんバブリーな店に行くのがお決まりでした。小学生なのにウェイティングバーがあるような店の革張りのソファに座って、その店の名物のストーンクラブという蟹を食べ、食後にはキーライムパイを食べて。レストランというものを楽しむことを叩き込まれていました。
でも、箸の使い方や作法に厳しい母と比べて、父はフォークとナイフが嫌いで、ビーサン履きで屋台で食べるような食事が好きだったんですよ。台湾の高雄に行ったときには父と二人で船に乗って離島の掘っ建て小屋みたいなところで、ボウルに山盛りになったアツアツのすごくおいしい海老をひたすら食べて、食べ終わったら帰る、みたいな。
そういう子どもの頃の食の思い出というのはとても鮮明にありますね。
花田
一方で、料理にまつわる本や雑誌も当時からお好きだったんですよね。
ツレヅレ
小学生の頃の思い出の本というと、母の本棚にあった『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』という石井好子さんのエッセイを勝手に読んでいて、その本に出てくるパリの食べものがとてもおいしそうで。でも母に「このオムレツっていうのが食べてみたい」って言ったら「いつも食べてるでしょ」って言うんだけど、それはただの卵焼きなんですよ(笑)。それで自分が食べたいものは自分で作らないと食べられないんだ、とお小遣いで生クリームを買ったりして作るようになりました。
花田
小学生でオムレツのために生クリームを。すごいですね。でも本に出てくる知らない食べ物ってほんとうにおいしそうに感じられるんですよね。特にその頃はまだ海外の食材や料理は日本に入ってきてないものも多かったし、絵本や児童文学に出てくる食べ物も知らない単語にあふれていました。それがいっそう好奇心を掻き立てるわけですけど。
ツレヅレ
そうですよね。当時はエスニック料理の本もまだ少なくて、インターネットもないしジェノベーゼに大葉を代用しているような時代だから、子どもなりに「このクミンというものはどこで売っているんだ」って自転車で自分が行ける限りのスーパーマーケットを探して回ったりしましたよ。
花田
そんな小学生、聞いたことない(笑)。
ツレヅレ
レシピ本は今でも1000冊くらい持っているのですが、大切にしている本は自分が16歳くらいの頃に買った本が多いんです。多分その頃に本格的に取り組み始めたんですね。書き込みや汚れもすごい。
花田
リングノート型になっている昔のESSEの料理本を今でも大切になさっていると、本の中でも書かれていましたね。
ツレヅレ
今でもときどき読み返します。今って何でも手に入るけど、その時代のそういう本ってもう自分だけのものだから。最近はもうあまり作らないんですけど、ケーキの本に自分でカロリーを計算して書き添えていたりして、思春期だねえ、って(笑)。
花田
それは捨てられないですね。
ツレヅレ流、家づくりと海外旅行を楽しむコツ
花田
この本ではないんですが、『女ひとり、家を建てる』もすごく好きな本なんです。私もまさにツレヅレさんと同世代の独身ひとり暮らしで、買うとしても中古マンションかな、でも賃貸でいいんじゃない? と思って生きているところでした。なのでツレヅレさんの心境の変化も面白かったですし、何よりほんとうに自分好みの家を作っていくということが面白すぎて。家を建てるのがこんなに楽しいことだとは思ってもいませんでした。
ツレヅレ
建てる気になった?(笑)。
花田
いや、それは……(笑)。でもかなり揺さぶられました。
ツレヅレ
あの本を読んで実際に「ひとり暮らし一軒家、建てることに決めました」という読者の方からのDMを何件かいただきました。
花田
どんな大きなものもどんどん売ってしまうツレヅレさんの営業力がすごいです。キッチンを作られたタニコーさんなんて、あれを読んだ方からの問い合わせが殺到しているんじゃないですか。それまでは分厚いステンレスの魅力なんて考えたこともなかったですが、あれを見たら魅了されてしまいますよ。
ツレヅレ
そう。タニコーさん、実際にいろいろお問い合わせがあったと聞いてうれしいです。
花田
今まで一回も火がついたことのない「家を建てたい」という気持ちに火がつくのを体感できるのは、読書体験として面白いです。あれって家を建てようかなと思って検索しても絶対たどりつけない情報だし。
ツレヅレ
家を建てる過程っていうのが、最高に面白かったんですよ。当然予算というものがあるじゃないですか。予算と折り合いをつけながら家を建てることって結局何をしているかというと、自分の優先順位と向き合うことなんですよね。自分にとって何が大切なのかということとひたすら向き合う作業。だからタフじゃないとできないし、自分を強くする。家を建てる過程の中で、それまで知らなかった自分と何度も出会えたなあと思います。
花田
私もちょうど今(対談日は7月末)9月にオープンする店の内装決めの作業をやっているところなので、とてもよくわかります。時間もない中でシビアに問われたときに、はじめて自分の大事にしているものがわかるような気がします。自分の家を建てることはみんなが経験することではないとは思うのですが、自分のこだわりがみんなと違う人ほど豊かな経験になりそうですね。「普通でいい」という人にとっては大変なだけかも。
ツレヅレ
うん、決めなきゃいけないことが多すぎるから。こだわりがない人なら最大公約数的にうまくできている家を住宅メーカーで頼むほうが全然いい。それがダメだとかは全然思わないし。ただ注文住宅を建てるのは大変だけれど超楽しいですよ、とは言いたい。
花田
今まで見えなかった世界が見えるようになりそうですね。
ツレヅレ
そうそう。たとえば、ステンレスの厚みもそれまではそんなに意識したことがなかったけど、わかるようになってしまったら、建築家さんと打ち合わせ中に町中華の店の厨房をのぞきこんで「あれは何ミリですかね」なんて話したり。散歩中も人さまの家の外壁を眺めて「この素材だとメンテナンスが大変そうだし、これは高かっただろうな」なんて思ったりして。ほんとうに見える景色が違ってくるの。
花田
本書では韓国やスリランカへの海外旅行のことも書かれていましたが、ここにもツレヅレさん流のいきいきした楽しみ方があふれているように思うんです。私も海外に行くのは好きなんですが、ツレヅレさんほどの大胆さもクレバーさもなくて、昔のバックパッカー時代の価値観をむだに引きずっているのが今の自分と合っていないなと感じるようになりました。大人が海外の旅を楽しむためのアドバイスをお伺いしたいです。
ツレヅレ
いやいや、私も若いころのパッカー時代を経ての今です。でも、そうですね、ちゃんと調べていくってことですかね。私の場合、まず「あれを食べたい、これを食べたい」という動機があって、それが多い国に行ってるんですよね。だから自然と食に関することを調べるし、食つながりでどの土地の器とか調理器具を買いたいというのもあるのでそこから調べる。どこの国にもぜったい、日本でいうところの益子みたいな、陶器の町があるんです。それをルートに組み込むようにはしていますね。
花田
下調べ、大事ですよね。
ツレヅレ
あとは、安全と時間は金で買う、っていう世代なので、英語か日本語ができるガイドさんやドライバーさんを事前に終日で雇うというのがおすすめです。もともとインドによく行っていたときに、日本人客に強い「シゲタトラベル」というドライバー会社があってよく利用していたんですが、バリバリのインド人なのに完璧な日本語のメールが来る。だいたいどこの国にもそういう会社があるんですね。そういうところだと「その日は雨だったらこっちに行きたいけど、晴れてたらこっちにしたい」とか細かいニュアンスの要望も伝わりやすい。現地の人の解説もすぐに日本語に訳して教えてくれるし。
花田
旅のクオリティーがまったく変わりそうです。若い頃はつたない英語でもやりとりできた! というのもまた旅の喜びだったんですけど、それだと結局挨拶程度で終わってしまう。いかに安く行くかなんて、もう頑張ってもしょうがないのに。
ツレヅレ
快適にやるための努力を惜しまないことが大事だと思います。自分が何をしたいかということに焦点を当てて、できる限り事前に根回ししておく、アポをとっておく。その努力次第で旅が豊かになると思うな。大変ですけどね。
花田
お話を聞いていると、ガイドさんの価値はお金以上だなと思います。
ツレヅレ
そうですね。よくインドで言われるのが、なんで日本人は飛行機に乗ってまでインドにきて、1食50円とかのおいしくないカレーを食べて、お腹を壊してよろこんで帰るのか、と。インドは特にレストランの幅が広いので、お金を出せば絶対日本では食べられないようなレベルのインド料理が食べられるんですよ。多分コースで1万〜2万円はするけど、でも来たからにはそういうものを食べられることが最大の魅力。若いバックパッカーの頃にはそんな経験は不要かもしれないけど、大人になったらよいお金の使い方というものは変わってきますよね。
花田
そもそも、コロナ以前でさえも、もうバックパッカーという言葉も日本では死語かもしれないですね。べつにみんなが海外に行く必要はないのですが、私たちが若かった頃より国が貧しくなってしまっていることもあって、若い世代ほど経験にお金を使うということが想像しづらくなっているかもしれません。欲望も小さくパッケージングされていて、テレビを見ていても、知らない国のすごい食べ物より、コンビニやファミレスの食べものへの欲求ばかり取り上げられているような気がします。
ツレヅレ
たしかに。若い人たちは生まれたときから不況だし、しかもよくなる気配がまったくない時代を生きているから、お金を使うことに消極的なのは仕方ないかもしれないですね。でも、自分のためにお金を使うことって絶対自分に帰ってくるし、それをやらないと結局自分がよくなっていかないから、あまり怖がらないでほしいなと思います。
SNSで病んでしまう人にすすめたい本
花田
今回のご著書がインスタグラム発のものであることを踏まえて、最後にSNSとの付き合い方についてもお伺いしたいです。ほんとうにどのページもエネルギッシュかつポジティブで、読んでいて元気になれるものばかりだと思うのですが、ご自身で書かれることをコントロールされているのでしょうか? あまり元気じゃないときや、憂鬱なときの自分は出さないようにされているのかな、とか。今、SNSとの付き合い方や、ほんとうの自分とSNSで見せている自分との距離に悩んでいる方も多いと思うので。
ツレヅレ
それがねえ、ほんとうにないんですよ(笑)。そう見せているわけではなくて。だいたい毎日楽しいし、ストレスも悩みもほぼない。
花田
えーっ。昔からですか。会社員時代も?
ツレヅレ
うん、あんまりない。落ち込んだりもしないし、たいして不安もない。言い方が難しいのですが、私、自己肯定感がやたらに高いみたいです。自分が大好きだから生まれ変わってもまた自分になりたいし、人と比較もしないし、エゴサもしない。
花田
本が売れなかったらどうしよう、と思ったりもしないですか。あるいはフォロワーが減ったらどうしよう、とか。
ツレヅレ
誰か買ってくれるといいな〜って思ってるし、フォロワー数もなるようになる。今何人いるのかも知らないです。
花田
これじゃあまり悩んでいる人の参考にならないかもしれない(笑)。でも、信じられないと言いたいところですが、こうしてお話しさせていただいていると、わかる気がします。ツレヅレさんって天性のスターらしさがありますね。アイドルになるべくしてなっている人のオーラというか。その自信込みで、みんなが魅了されているという感じがします。
ツレヅレ
そんなのは滅相もないですけど、ほんとうにネガティブな感情はほとんどないんです。インスタも、ネガティブなことは書かないようにしている、とかではなくて、ほんとうにインスタが自分と合っているし好きなんです。他のSNSはほとんどやっていなくて、社会に必要な議論などはもちろんあるとはいえ、人を批判し合ったりネガティブな意見を言い合うのはあまり見たくはない。人ってやっぱり、楽しいときとかうれしいときに写真を撮るじゃないですか。悲しいときに写真を撮る人はあまりいないですよね。だから楽しいときに撮った写真が自然と集まってくる場所でみんなで「いいね」という気持ちを交換し合う、そういうことが好きだし、自分も自然とそういうことを書いているのだと思います。
花田
インスタの規格にご自分を合わせているのではなく、ほんとうに天性のインスタグラマーなんですね。でもそれが嘘ではないということがこの本を読めばわかるのではないかと思います。SNSの使い方や発信に悩んでいる人にも、ツレヅレさんのこの本物の輝きをぜひ感じてみてほしいです。
ツレヅレハナコ
2004年より食をテーマにしたホームページ「ツレヅレハナコ」を始め、以降ブログ、Twitter、Instagram などで発信し続けている食情報が人気を呼び、次々と書籍化されている。著書に『女ひとりの夜つまみ』『ツレヅレハナコの愛してやまないたまご料理』などがある。
(構成/花田菜々子)
〈「STORY BOX」2022年10月号掲載〉