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◎編集者コラム◎ 『てらこや青義堂 師匠、走る』今村翔吾
 今年1月に『塞王の楯』で第166回直木三十五賞を受賞した今村翔吾さんは、元ダンスインストラクターです。作家を目指したきっかけとして、教え子から「翔吾くん(と呼ばれていたそうです)だって夢を諦めている」と言われたことをインタビューなどでも話しておられるので、ご存じの方も多いと思います。このたび文庫版が発売された『てらこ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第207回
 休憩を挟んで開廷された。遠藤の席は空席になっている。「裁判員の皆さんに説明します。本日の残りの証人尋問は、綿貫さんの体内から採取された精子のDNAを争点としています。検察側は、精子のDNAは漂白剤によって破壊されているので鑑定結果は信用性が低く、精子のDNAに証拠価値はないと主張しており、弁護側は反対に、精子のDNA
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第20回
第20話 19日目の塩焼きそば 冷蔵庫を開けると野菜の使い残しがずいぶんいろいろ溜まっていた。外葉から剥がしつつ使っていたキャベツはまだソフトボールくらいの大きさで残っているし、にんじんは細い先の方だけがラップにくるまっている。1個だけ残っているピーマンはやや萎びかけていて、玉ねぎは律儀に4分の1個分だけ、これもラップ
芦沢 央さん『夜の道標』
自分が抱いていた恐怖や問題意識と繫がりました 作家生活十周年を迎えた芦沢央さんの新作『夜の道標』。一九九〇年代に起きた殺人事件をめぐり、容疑者の男、男を匿う女、彼らに関わる二人の少年、調査を進める刑事の姿から炙り出されるものとは。この時代、この人物設定だからこそ切り込めるテーマに勇気を持って挑んだ痛切で衝撃的な一作だ。
「舞台でしか生きられない」──中村吉右衛門さんが最期に綴った言葉を振り返る
 昨年11月、8ヶ月の闘病の末に77歳で世を去った、歌舞伎俳優の中村吉右衛門さん。このたび、新刊『中村吉右衛門 舞台に生きる』(小学館)が出版されたが、実はこの作品、吉右衛門さんが生前、「本の窓」で連載していたエッセイを中心にまとめたもの。著者が綴っていた歌舞伎への思いを、本書とともに夫人の波野知佐さんに振り返っていた
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド 今回の目利きさん 啓文社 西条店 三島政幸さん
「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間です」警察に協力する民間の鑑定人、土門誠の台詞だ(「遺された痕」より)。ややぶっきらぼうに見えるが、科学捜査には真摯に取り組む。自らの鑑定結果には絶対的な自信を持ち、裁判での証言も積極的に行う。土門にとって、事件の内容や真相は二の次で、科学鑑定の結果が絶対なのだ。科学第
採れたて本!【評論】
 本書は、現在の文化産業におけるコンテンツの「発信側」と「受信側」の認識落差の深みを可視化したことで大反響を呼んだウェブコラム記事を大幅加筆したものだ。ファスト映画に象徴される「粗筋と見所まとめ」じみたマニュアル的存在の優先的受容を「情報過多時代に観客が生き抜くための一種の必然であり、そこに旧来の本来的な、というか低効
祇園「よし屋」の女医者
啓文堂書店全店で一ヶ月間販売した時代小説(文庫)のなかで、最も売り上げの多かった作品に贈られる賞「啓文堂書店時代小説文庫大賞」。フェアを終え、藤元登四郎さんの『祇園「よし屋」の女医者』が、2022年の第1位に輝きました!
辻堂ホームズ子育て事件簿
2022年8月×日 先月のエッセイ原稿を、「言葉が増え始めた娘が、『ゲラ』という単語を覚えた。」という一文から始めたところ、担当編集さんから「その件も非常に気になります(笑)」というメールの返信をいただいてしまった。仕込んだのは夫だ。ようやく喋ることに興味を示し始めた娘が、2文字の単語なら何でも真似してくれるようになっ
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
家の本、置くスペースなさすぎる問題 先日、八咫烏シリーズの作者である阿部智里さんとアフタヌーンティーに行った。阿部さんとは定期的にお茶する仲で、いつも面白い本や漫画を教えてもらう。「最近、ファンタジー小説を読みたい気分なんですよ」と言った私に、阿部さんが勧めてくれたのが海外児童文学の『アルテミス・ファウル』シリーズだった
「推してけ! 推してけ!」第23回 ◆『レッドゾーン』(夏川草介・著)
評者=池上 彰(ジャーナリスト) あのとき何が起きていたのか コロナに脅える病院の医師たちの奮闘 これは医療の世界を目指す人、必読の書だ。新型コロナウイルス対応のワクチン接種が進み、新型コロナがどういうものか理解と研究が進んだ現在では、恐怖心を抱く人も少なくなったが、いまから二年前の二月は、そうではなかった。当時、医療
夏川草介『レッドゾーン』
人は人を支えることができる 昨年、私はコロナ診療をとりあげた一冊の小説を上梓した。第三波を題材とした『臨床の砦』という名のそれは、圧倒的な不安や苛立ちの中で、ともすればコロナ診療から逃げ出したくなる自分を、なんとか踏みとどまらせ、精神の安定を保つための、いわば強壮剤であった。ゆえに完成した作品は、悲鳴のような様相を帯び
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第206回
「あなたは先ほど、漂白剤から次亜塩素酸ナトリウムが検出された、とおっしゃった。次亜塩素酸ナトリウムは消毒や殺菌などにも用いられる、われわれにとって比較的身近な化学物質です。しかし、鑑定作業においては一筋縄ではいかない存在としても専門家には知られている。時間経過した液体試料や液体をかけられ変色・脱色した乾燥試料からは検出
著者の窓 第19回 ◈ 若松真平『声をたどれば』
「ココイチ」のカレーをきっかけに変わった人生、亡き父の絵が起こした奇跡、パンの耳を残す息子への「ヤマザキ」の神対応──。無名の人に起こったささやかで、思いも寄らない出来事の数々。若松真平さんの『声をたどれば』(小学館)は「朝日新聞デジタル」に掲載されて反響を呼んだ記事二十五本をまとめた一冊です。のべ二億人超のユーザーに
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド 今回の目利きさん 丸善 お茶の水店 沢田史郎さん
 1998年3月13日。東大の後期試験の数学で、受験史に残る難問が出た。その難易度といったら、試験当日に解答速報を出すのが通例となっている一流大手予備校でさえ、一日では解けなかったというレベル。当然、完答できた受験生はゼロ。という設定は、実は本当にあった話だそうだ。その伝説の難問事件に材を取り、多彩なキャラクターとユー
特別対談 田口幹人 × 白坂洋一[前編]
「本を読むこと」を広める活動を続ける「未来読書研究所」代表の田口幹人(以下、田口)さんが、自身の取り組みを綴る連載が、この秋、「本の窓」で始まります。白坂洋一(以下、白坂)先生は、筑波大学附属小学校の国語科教諭として、児童への読書推進活動に心血を注いでおられます。「読書離れ」が叫ばれて久しい今、どんなアプローチからそれ
ハクマン第90回
現在私は漫画をフルデジタルで描いているのだが、デビュー当時はネームを紙に書き、それをファックスで送っていた。つまり私は団塊ジュニア世代で8050問題の50側、80サイドを担当してくれる年金受給者をメン募中、ということになるのだが、実際は団塊ジュニアに魚民で説教されているぐらいの年齢である。よって私がデビューした時にはネ
むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第1回
 旅行がめんどくさい。交通機関を調べたり、宿を予約したり、地図でいきたい場所と場所の位置関係を見て唸ったり、天気の心配をしたり、荷づくりにそわそわしたり、靴はどうしようか悩んだり。出発前の考えることリストを考えるのがめんどくさい。わたしはあまり旅に向いた人間ではない。そんなわたしが旅を夢見てうっとりしてしまった、とって