『小説王』文庫化!特別対談 早見和真 × 森 絵都「作家の覚悟」

『小説王』文庫化!特別対談 早見和真 × 森 絵都「作家の覚悟」


編集者と共に作品を創るスタンスについて

──『小説王』の題材は、担当編集者から提案されたものだそうですね。

早見 僕、他人から題材をもらって小説を書くの、実はこれが初めてなんです。森さんはいつもどのように題材を決めているんですか?

 題材は自分で考えていますが、最初にざっくりしたテーマをいただくケースもあります。たとえば水泳の飛び込みに打ち込む少年たちを描いた『DIVE!!』のときは、「少年を主人公にした成長の物語を」とのリクエストがありました。低学年向けの児童書の場合は、食べものを主人公にしてください、とか。

早見 僕は作品にもよりますが、編集者と事前に何度も打ち合わせをします。これもやはり自分に自信がないからで、打ち合わせを重ねれば重ねるほどいい作品になると思っている節があります。

 そのあたりは本当にそれぞれですよね。私はとりあえず第一稿をあげて、修正の段階で編集者の意見が欲しいタイプかも。結局、書いてみなければわからないという思いが強いんですよ。

早見 僕はつまらないならつまらないとはっきり言ってほしいタイプなのですが、こうしてキャリアを重ねていくと、手放しで作品を褒められることが増えてきた気がするんです。

 あ、それはあると思います。私も23歳でデビューしたころに比べると、率直な意見を言ってくれる編集者がだいぶ減ってしまいましたから。年齢差があると、私自身、遠慮をしてしまうところもありますね。

早見 それでいうと僕は今、ちょうど同世代の編集者と一緒に仕事ができているんです。だから皆さん、打ち合わせをしていても遠慮なくいろんな意見を言ってくれる。ところが、向こう数年で彼らの役職が上がると、若い編集者に引き継がれていくことになると思うんですよ。

早見さん森さん

 担当編集者がどんどん現場から離れていってしまう。私はすでにそれを経ています。

早見 自分に自信がない僕としては、そのときが今から心配で(笑)。森さんはこの仕事をしていて、焦ることなんてありませんか?

 常に焦っていますし、デビュー後は、かなり長いことやっぱり自信がありませんでしたね。本は出したものの、はたして作家としてやっていけるのだろうか、と。「この一冊がダメだったら、きっともう次はないんだろうな」とか思いながら、しんみり書いていました。

早見 すると、どのタイミングで作家としての自信を得たんですか?

 自信というか、覚悟が生まれる転機になったのは『カラフル』でした。この本は装丁のおかげでジャケ買いしてくれた方も多くて、上梓しすぐに初めていろんな反響が届いたんです。それまでは正直、誰が自分の書いたものを読んでくれているのか、まったくわからなかったので。

早見 『カラフル』、輪廻のサイクルからはずれた魂が少年の体にホームステイするという設定が、すごくいいですよね。他人の生活を通して自分の欠点を少しずつ理解する展開に、共感する人は多かったはずです。森さんがこの作品で初めて読者の気配をリアルに感じることができたというのも、なんだか納得してしまいます。

 作家にとって読者がどんな存在であるかは『小説王』にも描かれていますよね。読者に励まされながら、でも一方で、作家はやはり自分一人で自分を支えていかなければという思いも常に抱いています。自分でいいと思っていても、他人は評価してくれないことなんて山のようにありますし。

忘れてはいけない「平成」の記憶(2)/御厨貴『天皇の近代』
美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第6話 赤い痣――少年と少女のプロレゴメナ――