■特別対談■ 一木けい × 鳥飼 茜 物語の力を信じたい

■特別対談■一木けい × 鳥飼 茜 物語の力を信じたい

 高校二年生の橙子と、彼女が抱えるある秘密を知った友人たちの心象を、リアルにとらえた意欲作『愛を知らない』(ポプラ社)を上梓したばかりの一木けいさん。そんな一木さんがファンと公言しているのが、漫画家の鳥飼茜さんです。
鳥飼さんの『サターンリターン』刊行を機に、小説丸で実現したおふたりの対談は、初対面にもかかわらず、お互いの創作観にまで話題がひろがる深くてたのしいトークになりました。


怖いほどの視点の角度の鋭さ

鳥飼
初めまして。

一木
今日はよろしくお願いします。お会いできて、本当に嬉しいです。

鳥飼
本当?

一木
私が一方的に愛してやまない漫画家さんなので、興奮しています。編集者から「鳥飼さんと対談という企画があったらいかがでしょうか」と提案があったとき、そりゃいくらなんでも実現不可能だろうと諦めていたんです。それがこうしてお目にかかれるなんて。

鳥飼
嬉しい、ありがとうございます。

──一木さんは鳥飼さんの作品で、何を最初に読まれたんですか?

一木
『おんなのいえ』ですね。え、タイトル合ってます?

鳥飼
(笑)合ってます、合ってますよ。

対談

一木
『おんなのいえ』はストーリーはもちろん、絵そのものや、本のデザインがすごく素敵で、そこから鳥飼さんが大好きになりました。
漫画だけじゃなくて日記エッセイの『漫画みたいな恋ください』も、最高です。持っている本は、付箋だらけですよ。

鳥飼
わー、嬉しいな。

一木
鳥飼さんは文章の方もすごいんですよと、もっと知られてほしい。

鳥飼
そこ、太字でお願いします(笑)。

──『おんなのいえ』以降、ずっと読んでらっしゃるんですね。

一木
はい、鳥飼さんの作品に心酔しています。絵が本当に魅力的で、あと全体的に、怖い。

鳥飼
怖い?

一木
そう。怖いけれど、深いところでわかる。どうしても、目が離せないというか。読み始めた頃は、私はまだ物を書く側ではなかったんですが、作家になって読んでいくうちに、さらに恐ろしさが増していったんです。

鳥飼
どういう恐ろしさだろう。教えてください。

一木
物を書くっていうのは、内面をえぐること。鳥飼さんのえぐり方は、こんな恐ろしいものに立ち向かっていくの? と戦慄するような、底知れなさがあるんです。

鳥飼
うん、うん。

一木
あと視点の角度が鋭い。物語のなかで、思いがけないところに違和感が表れます。その違和感の視点が、誰も触れたことのない、とてつもない鋭角から差しこまれています。かといってわかりづらいとか、奇抜なことが描かれているとも感じない。それが本当にすごいんです。

鳥飼
ありがたいご意見です。

登場人物に序列をつけていない

──一木さんの新刊『愛を知らない』を、鳥飼さんもお読みになられたんですよね?

鳥飼
はい。すごく面白く読ませてもらいました。『1ミリの後悔もない、はずがない』も良かったですが、今回はさらに読みやすくて、一気に読み終えました。

一木
ありがとうございます! 感激です。

対談 一木さん

鳥飼
やっぱり橙子ちゃんのお母さんの芳子さんが、重要な存在ですね。彼女のやったことについては、賛否があるでしょう。でも私は、悪い人だとは思わなかったですし、特に変だという感じも、しなかった。肯定はできないけれど、「人間って、こういうところもあるよね」と気づけるような存在じゃないかと。

一木
ああ、なるほど。

鳥飼
芳子さんみたいな人が、異端的に見られて、「こういうところもあるのが人間だ」という意見を普通には言えないのが、いまの社会の空気感なんだろうなと、思ったりしました。

一木
私は、ああいう感じの人がもしも実際にいたら、走って逃げます。

鳥飼
本当ですか?

一木
鳥飼さんは、近寄ってみる方ですか?

鳥飼
んー、近寄ったりはしないけど、あえて避けたりしないかな。

一木
私は全力で離れる。自分の優先順位のなかにないから。でも、そういう順位づけができるようになったのは、割と最近になってからです。

鳥飼
でも一木さんは、小説の登場人物には序列を付けていませんよね。『愛を知らない』でも、芳子さんの順位を下にしているわけじゃない。描いている人物に優先順位を付けないところは作家として、とても信用できます。

一木
私はただの鳥飼さんのファンだから、そんなことを直接言ってもらえるのが嬉しいし、不思議な感じがします。

鳥飼
本当、思いますよ。私は芳子さんに、好感すら持っています。

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