佐藤 優「危機の読書」〈第8回〉共産党の内在的論理とは?

危機の読書

今月の一冊
「鉄の規律によって武装せよ!」『宮本顕治著作集 第一巻 一九二九年~三三年』(新日本出版社、2012年)


「鉄の規律によって武装せよ!」『宮本顕治著作集 第一巻 一九二九年~三三年』(新日本出版社、2012年)
私的生活についていえば、共産党員は全生活を革命の事業にささげている
―「鉄の規律によって武装せよ!」より

「桜を見る会」、日本学術会議の人事問題などで政権攻撃の土俵を作っているのが日本共産党だ。その尖兵を担っているのが同党機関紙「しんぶん赤旗」である。今年9月、「桜を見る会」を巡る報道(日曜版)によって日本ジャーナリスト会議(JCJ)が設けたJCJ大賞を受賞した。11月28日付の朝日新聞では、「政党機関紙の受賞は珍しい」として、赤旗特集を組んでいる。

〈11月上旬、東京・千駄ケ谷のビルに入る赤旗編集局を訪ねた。(略)編集局は共産党の一部局で、記者はみな党員だ。/党幹部でもある小木曽陽司編集局長と日曜版の山本豊彦編集長が取材に応じた。/「我々は権力監視を最も重視しており、こういう問題に反応する鋭いアンテナを持っている」。山本氏はそう話す。/どういうことなのか。大賞を受賞した「桜を見る会」は昨年10月13日付の日曜版の記事。「首相主催『桜を見る会』安倍後援会御一行様 ご招待 地元山口から数百人規模 税金でおもてなし」といった見出しで報じ、共産党議員が国会で政権を追及した。政府は翌年以降の開催中止に追い込まれた。/会の予算額が年々増えていることに山本氏らが着目し、取材が始まったという。自民党議員への取材で、「安倍さんの後援会は桜を見る会にたくさん来ている」という情報をつかみ、前首相の地元後援会関係者が多数招かれていることを確認した。JCJ賞では「地道な調査報道を重ねたことや大きなインパクトを与えたこと」などが評価された。/ただ、赤旗の紙面は党の政策の紹介や党幹部の国会質問、党所属国会議員の発言、政権批判が中心だ。その一方で、米大統領選などの一般ニュースやスポーツニュースも扱い、将棋の棋戦も主催している。(略)「インタビューを断られることも多い」(山本氏)というが、党が野党共闘路線に本格的に踏みだした2015年以降、「登場してくれる文化人やタレントが増えた」ともいう〉

 記事では、「機関紙である以上、党指導部の方針を伝える役割からは自由になれず、独立したメディアにはなれない。その矛盾は抱え続ける」(政治学者の加藤哲郎・一橋大名誉教授)との指摘を伝えつつも、同紙を批判的には論じていない。共産党が野党共闘路線を取ったことも、こうした評価の背景にある。

 たしかに共産党を無視して日本の政治を分析することはできない。ここで注意しなくてはならないのが、共産党は普通の政党ではないという事実だ。日本共産党綱領(2004年)は、〈日本の社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題となる〉と革命の方針を明確にしている。日本政府は、日本共産党が暴力革命路線を放棄していないと見ている。この点について、破壊活動防止法(破防法)に基づき、共産党を担当している法務省の外局である公安調査庁の見方には説得力がある。

〈共産党は、第5回全国協議会(昭和26年〈1951年〉)で採択した「51年綱領」と「われわれは武装の準備と行動を開始しなければならない」とする「軍事方針」に基づいて武装闘争の戦術を採用し、各地で殺人事件や騒擾(騒乱)事件などを引き起こしました。

 その後、共産党は、武装闘争を唯一とする戦術を自己批判しましたが、革命の形態が平和的になるか非平和的になるかは敵の出方によるとする「いわゆる敵の出方論」を採用し、暴力革命の可能性を否定することなく、現在に至っています。/こうしたことに鑑み、当庁は、共産党を破壊活動防止法に基づく調査対象団体としています〉(公安調査庁HP、註釈など省略)

 共産党は、最近、筆者に対する敵意を剥き出しにしている。「しんぶん赤旗」(11月19日)が、「フェイクの果ての「赤旗」攻撃/菅官邸を擁護する佐藤優氏の寄稿」(三浦誠社会部長署名)と題し、筆者を名指しで非難する記事を掲載した。「赤旗」は、日本共産党の公式の立場を反映する媒体だ。共産党が筆者に対して、〈佐藤氏を知るメディア関係者は、「官邸の代弁をしている」といいます〉という印象操作をしている。筆者が「官邸の代弁をしている」という事実はない。

偽りの処方箋

「赤旗」記事に対する反論は『月刊Hanada』2020年2月号に記したので、本連載では、自らが気に入らないと考える有識者に対して「官邸の代弁をしている」などというレッテル貼りと印象操作で自らの正当化を試みる共産党の内在的論理について考察してみたい。危機の時代において、共産党が提示する偽りの処方箋がいかに危険であるかを、共産党が現在も規範とするテキストの分析を通じて論ずることにする。

 ここで取り上げるテキストは、共産党の書記局長、委員長を歴任した宮本顕治氏(1908~2007年)の論文「鉄の規律にとって武装せよ!──党のボルシェヴィキ化について──」(『赤旗』1934年2月7日号)だ。

 ボリシェヴィキとは、ロシア語で「多数派」の意味だが、ロシア社会民主労働党のレーニン派(共産党の前身)がボリシェヴィキと自称してから、共産党を意味するようになった。戦前、共産党が非合法化されていた時期のテキストだが、宮本氏は1949年にこの論文を『自由と独立への前進』(真理社)に収録した際の付記にこう書く。

〈今日、党は合法党として活動していて、当時とことなった事情にあり、したがって非合法時代の党防衛上の個々の具体的措置や指示は、今日ではそのまま通用しない点もいろいろある。しかし、支配階級は民主勢力にたいするスパイ、挑発政策という古くさい武器を今日もあいかわらず愛用しているし、今後も、ますますその傾向はつよくなることはあきらかである。したがって、階級的組織を防衛するための基本方針と覚悟については、この論文も今日役だつものがあろう〉(『宮本顕治著作集 第一巻 一九二九年~三三年』新日本出版社、2012年、394頁)

「鉄の規律」が共産党の核心

 現在も、公安調査庁や警察庁は、共産党に対する調査を続けている。その中には、共産党内で協力者を育成し、情報を入手することも含まれる。共産党からすれば「スパイ、挑発政策」ということになるであろう。この文書が2012年に共産党系の新日本出版社から刊行されたという客観的事実自体が、ここで宮本氏が記した組織原則が今も共産党で活きていることを示唆するものだ。その前に宮本顕治氏の履歴について百科事典の記述を引用しておく。

〈政治家。共産主義者。山口県熊毛郡光井村(現在の光市)に生まれる。愛媛県松山高校在学中に社会科学研究会を組織し、松山に『無産者新聞』支局をつくる。東京帝国大学経済学部在学中の1929年(昭和4)、芥川龍之介の自殺を論じた「『敗北』の文学」が雑誌『改造』の懸賞論文に1位で入選、文壇に登場する。1931年、東大卒業後、日本共産党に入党し、プロレタリア作家同盟に参加。1932年、中条百合子と結婚、1933年2月、共産党中央委員となる。同年12月、治安維持法とスパイ査問事件で逮捕され、法廷闘争を続けたが、1945年(昭和20)1月、無期懲役の判決を受けた(第二次世界大戦後「刑の言い渡しを受けざりしもの」として復権)。非転向を貫き、1945年10月網走刑務所から釈放。獄中の宮本と妻百合子との往復書簡は、のちに『十二年の手紙』として公刊された。共産党再建強化委員となり、中央委員などを歴任。1950年の党分裂後は「国際派」の指導者として活動した。(略)1977年~1989年(平成1)まで参議院議員。1982年(昭和57)7月、第16回大会で委員長の座を不破哲三に譲り、議長となった。1997年(平成9)議長を引退し、名誉議長となり、2000年(平成12)名誉役員となる。『網走の覚書』『日本革命の展望』など著書多数。[小田部雄次]〉(『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館、ジャパンナレッジ版)

 宮本氏は、民主的中央集権の原則に基づく「鉄の規律」が共産党の核心であると強調する。

〈ボルシェヴィキ党の鉄の規律のためには、民主的中央集権の原則にもとづき、上級指導部の決定が、下部組織によって無条件的に遂行されねばならぬ。また機関内部にあっては、討議は徹底的におこなわなければならぬが、一たび多数決の原則にもとづいて決議が採用された以上は、全員がその決議に無条件に服従し、その遂行のために全力をつくす義務がある。/実に、上級機関の決定をまず討論してみて、やるかやらないかをきめるというようなことは、党の民主的中央集権を小ブル的民主主義にすりかえるものである。と同時に、口先だけで決定を承認しながら、なんらそれを実践にうつさない日和見主義こそ、多年わが党の規律を弛緩させてきたもっともおそるべき害悪であった〉(『宮本顕治著作集 第一巻』387頁)

 党中央が決定したことに、下部党員は無条件に従わなくてはならない。ブラック企業の論理に似ている。末端の共産党員が「しんぶん赤旗」の配達や集金で苦労している姿を見ると実に哀れになってくる。さらに共産党員には私生活がないと宮本氏は強調する。

〈なお、私的生活についていえば、共産党員は全生活を革命の事業にささげている。その意味において私生活というようなものはない。しかし、もし衣食住の部分をかりに私生活とよぶとすれば、共産主義者はつねに模範的なプロレタリア生活の実行者とならねばならぬ。飲酒・遊興・性的堕落・浪費・金銭上のルーズさ、とくに紙代、党費、公金の費消、流用等々は徹底的に指摘され、時としては断乎たる革命的査問に附せられなければならぬ〉(前掲書388頁)

 一般論として、禁止事項は当該行為に及ぶ人が少なからずいるから設けられる。宮本氏が、飲酒、遊興、性的堕落、浪費、金銭上のルーズさについて指摘するのは、それが共産党員の弱点だからだろう。共産党内部に協力者を獲得する際には、金銭の提供、飲酒やギャンブル、セックスなどが有効な手段になるということだ。いずれにせよ、革命に人生の全てを捧げているから私生活はないと考える人々による組織は、普通の政党ではない。

(11月29日脱稿)


「危機の読書」アーカイヴ

 

佐藤 優(さとう・まさる)

1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ソ連日本国大使館でソ連崩壊を目撃。『自壊する帝国』にて大宅賞、新潮ドキュメント賞受賞。『国家の罠』『獄中記』『十五の夏』など。

〈「STORY BOX」2021年1月号掲載〉

◎編集者コラム◎ 『荒野の古本屋』森岡督行
第9回「上流階級 富久丸百貨店外商部 其の三」高殿 円