ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第16回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第16回

横山光輝の漫画「三国志」の原画を見て
何を最初に思ったかというと
「これ、手で描いてんの?」だ。

原画と言っても、本に印刷されている通りの物が飾ってあるだけだろう、と思うかもしれないが、やはり原画は迫力違う、何人もの人がそこで足を止めて、写真を撮っていた(※撮影可)。

私がその原画を見て、何を最初に思ったかというと「これ、手で描いてんの?」だ。

まるで「漫画」というものを初めて見た北京原人のようなリアクションだが、なまじ自分が漫画を描いている分、逆にそう思えてしまうのだ。

漫画の作画クオリティは近年上がる一方、と言われている。
それは人間の技術向上もあるかもしれないが、ツールの進化が大きな要因になっていると思う。

今の作家は画力がなくても、パソコンソフトなどのツールで上手く描ける、という意味ではない。
そんなのは私の絵を見ればお察しだ、絵が上手い漫画は、みんな作家本人の高い画力によるものである。

しかし考えてみてほしい、漫画業界だけでなく、一般企業でもツールは進化し続けている。
昔は手で時間をかけてやっていたことが、今ではパソコンで一瞬、ということもあるだろう。

では、仕事が道具のおかげで早く出来るようになった分、余った時間は休みましょう、となっただろうか?

ご存じの通り「浮いた時間の分、さらに仕事しましょう」という流れである。

この方針である以上、どれだけツールが進化しても我々の労働時間が減るということはない。

漫画もそれと同じだ。
今でも圧倒的手作業部分が多い世界だが、それでもトーンやベタなどの単純作業部分は大きく時短された。

では、その浮いた時間をどうしたか、というとやはり多くの作家が「もっと描こう」となってしまったようだ。

つまり、ツールが発達したことにより、同じ時間、同じページ数でも描き込める量が増えた。これが漫画の作画クオリティうなぎ上りの要因の一つではないか、と私は考えている。

そして私は、早く終わったら、その分ソシャゲの周回をするので、さらに差がつくという寸法だ。

次記事

前記事

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

田久保英夫『深い河』/芥川賞作家・三田誠広が実践講義!小説の書き方【第72回】見事な文体と問題提起
【SM小説】美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第10話 どえむ探偵秋月涼子のご奉仕