ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第25回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第25回

作家には仕事を見極め、
時に「断る」という判断も必要だ。

まず今回良く分かったのは、嘘や「○○ということにしてくれ」というようなやらせが含む仕事は受けない方が身のため、ということだ。

特にインターネットは、勘の良いガキだらけな上、口封じに消すことも出来ない。
自撮りの瞳に映った建物で住所を特定できる能力者がいる世界である。
嘘は「何故かバレる」と思った方が良いだろう。

そして、最初からタダ仕事を依頼してくるところもダメだ。
むしろこれは仕事ですらない。

所謂「報酬はでませんが、あなたの宣伝になると思います」という奴だ。
確かに、グーグルトップのイラストなら、確実に宣伝になるのでタダでも描きたい気はする。
しかしそういう依頼をしてくるところは大体グーグルではなく、聞いたとことがない媒体である。
むしろ、載るだけで宣伝になるような大手媒体はちゃんと金を払う。

また、タダでなくても「カラー30ページ3000円(税込み)」みたいに法外に安いところもダメだ。
ただ安いからダメというわけではなく、こういう依頼をしてくるところは「漫画の相場をわかっていない」つまり「漫画のこと全般わかってない」ということである。
よって「3日ぐらいで描けますか」など、スケジュール面も無茶を言われる可能性がある。 また、そういうところは、すぐ描けると思っているので5億パーセント、ネームの返事も遅い。

さらに完成原稿に赤が入るという怪現象が起こり、「3ページほどちゃちゃっと描き直してもらえますか」と言われる恐れすらある。

漫画制作のことがわからないので、3ページ描き直すより、お前をちゃちゃっと絞め殺す方が早い、ということがわからないのだ。

これは漫画家だけではない、技術職にとって「わかっていないクライアント」の存在は脅威である。
彼らは大体のことは1クリックで何とかなると思っているので、後から無限に大幅な修正を入れてくる。

 

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『突きの鬼一 雪崩』鈴木英治
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