◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第105回

年齢を重ね、鴇田は中学生とのセックスが貴重に思えるようになり……。
鴇田がその年代の女とセックスをしたのはアメリカ留学時以来だった。
アルバイトをしていた造園業の得意先に不動産会社を個人経営する白人のシングルマザーがいた。仕事でやり手の彼女は営業を兼ねた付き合いが忙しく家には不在がちだった。母親のDNAを継いで十四歳の娘も美しく見事なスタイルの持ち主で、スクールカーストの最上位に位置するのは見るからに明らかだったし彼女自身それを認めていた。ハイスクールでは白人でイケメンで金持ちのアメフト部員と付き合うことになるのは間違いなさそうだった。
が、彼女には少し変わった趣味があった。日本のアニメを愛するおたくだったのだ。もちろん学校では隠していたし、一番の親友にさえ打ち明けていなかった。おたく趣味はスクールカーストの底辺にこそふさわしい属性だからだ。ブリトニーは──それが彼女の名前だった──日本人である鴇田に興味を持ち、母親を通じて日本語の家庭教師をオファーしてきた。鴇田は日本のアニメにはまったく興味はなかったが、提示された時給もよかったので引き受け、日本語の授業の合間にブリトニーとセックスする関係になった。処女ではなかったが、ポルチオオーガズムは未経験だったのでじっくり開発してやった。
その後もさまざまな人種、年齢の女とセックスをしたがブリトニーとのそれが一番印象深かった。
哺乳類のオスは繁殖のため、健康に出産できる可能性が高い若いメスを好むよう本能に組み込まれている。時間が逆戻りしない以上、若さは常に貴重だ。十四歳くらいの女にはそれより年を取ると永遠に失われてしまう独特の甘い匂いとヴァギナの締めつけ、みずみずしく弾力に富む皮膚の質感があった。
高校生までは深く考えることなく中学生とセックスしていたので当時はその価値に気づいていなかった。年齢を重ね、相応にリスクが高まってくると中学生とのセックスが貴重に思えるようになった。
鴇田はペドフィリアではない。小学生以下の女に性的興奮を覚えることはなかった。中学二年生にもなれば肉体においてはセックスを受け入れる準備ができている少女の方が多いと経験的に知っている。文明が発達するほど、社会のモラルは人間の動物としての本能からかけ離れた空疎なものになっていく。
浅見萌愛と出会ったのは去年の夏だ。インスタブックのアカウント名は「あ~も」。先に鴇田のアカウントをフォローしてきたのは彼女だった。鴇田はフォロー返しをしなかった。SNSでは、フォロワー数を増やしフォロー数を極力抑えることがアカウントの価値を高める。どんな群れであってもその中で少しでも優位なオスと交尾して優秀な遺伝子を種付けされたいと考えるのがメスの本能だ。
ダイレクトメッセージを送ってきたのも彼女が先だった。
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