◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第111回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第111回
断章──鴇田 13
萌愛のあえぎ声を耳にしながら鴇田は精神的なエクスタシーに達していく。

「漂白」目次


 鴇田は萌愛を仰向けにさせると、キスをした。さっきは感じなかった体温を感じた。萌愛の唇が柔らかくなっている。鴇田が唇に力を加えると自分から口を開いた。チャンネルが開いて精神と肉体がつながったのだ。

 舌を入れると萌愛はまぶたを閉じて「んっ……」とあえいだ。鴇田は舌を回してさっきより温かい萌愛の口蓋を愛撫し、萌愛の舌を吸った。萌愛の顔が紅潮し、両膝ががくがく震えた。唇を離すと、萌愛がうっすらとまぶたを開けた。とろんとした目で鴇田を見る。

「はえー、めっちゃいい匂いする~! 萌愛ちゃんたまんなくかわいい~~!」

 間抜けな顔を作り、感極まったように大げさに言うと、萌愛の頰が緩んだ。鴇田も笑みを返して軽くキスすると、口を萌愛の耳に寄せ、舌と吐息でソフトに愛撫した。萌愛の口から声が漏れる。鴇田は指で彼女のクリトリスに包皮ごしにそっと触れた。萌愛がきつくまぶたを閉じ、右手で鴇田の肩をつかんだ。だが感覚は遮断していない。「ん……う……」と声が出た。

 挿入の下地はできた。だが鴇田はすぐには挿入せず、また萌愛の股間に顔を埋(うず)めた。温かく、濡れていた。鴇田が唇と舌を使うと、萌愛は腰をくねらせた。抑えきれない快感が筋肉の収縮やあえかなあえぎ声として発露された。

 鴇田は萌愛の尻を抱え上げ、ヴァギナが天井を向くようにした。萌愛がびっくりしたように目を開く。その目を見返しつつ濡れたヴァギナを音をたてて吸うと、真っ赤な顔の萌愛が口を開いてまぶたをきつく閉じた。声が漏れるのを抑えようとするように、握った片手を口に当て、もう片方の手の甲で目を隠すようにした。

「うっ、うっ……」というあえぎ声が「あっ……あっ……」と変わってきた。いけるかもしれないという直感に従い、鴇田が舌の付け根で根気よくクリトリスを刺激していると、やがて萌愛の体が緊張して「あ……あああ──っ!」と声が高まり、びくびくと下半身を痙攣(けいれん)させ、ぴんと脚を伸ばした。

 萌愛の体から力が抜けるのを待って、尻と脚を下ろしてやる。萌愛は顔を上気させ、口を開いたまま大きく息をついている。その姿を見下ろして、鴇田は、自らの内に卓越したオスとしての力を感じ、強烈な興奮と満足感を伴う精神的なエクスタシーに達していた。

 ペニスも今や鋼鉄のワイヤーが入っているかのように硬くなっている。設置してあるカメラのディスプレイをチェックしてから、萌愛の横に体を横たえる。

「萌愛ちゃん、気持ちよかった?」

 萌愛はうっすらと目を開け、口を開けたまま、こくっとうなずいた。

「俺のことも気持ちよくしてくれる?」

 萌愛は鴇田をじっと見て、小さくうなずいた。「どうしたら……?」

「触ってごらん」鴇田は萌愛の右手を取り、自分のペニスに触れさせた。

 萌愛がまばたきをする。

 
里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

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