◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第118回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第118回
断章──鴇田 20
死体の処理については即断しなくては──。鴇田が選んだ解決策は……?

「漂白」目次


 LINEのメッセージ。文頭がポップアップされる。

 後藤(ごとう)みくる『トキオ、どうだった?』

 みくるは「ズッ友」の一人。萌愛が相談した相手は彼女だったのだ。

 メッセージを未読にしたまま考える。時間稼ぎのために萌愛を装って返信することもできる。だが親友なら違和感から疑いを抱かれてしまう危険もある。電話をかけてこられたら詰む。時間稼ぎどころか自分で自分の首を絞める結果になる。ひとまず無視だ。

 死体は単独で処分する。他人を巻き込んでもろくなことにならない。ではどうするか。人気のない山中に埋める。死体をバラバラにしてあちこちに捨てる。さらに細かくして下水に流す。現実的な線として浮かぶアイディアはそんなところか。誰かを殺すつもりならあらかじめ死体の処理についてよく考え、準備しておくのが賢明ということらしい。

 また着信音。

 後藤みくる『萌愛?』

 無視するとほどなく、

 後藤みくる『だいじょぶ?』

 さらに無視すると、萌愛のスマホからバイブ音と着信音が同時に響き渡った。LINE通話の着信──後藤みくるだ。

 無視するしかない。一つ確実になった。どう動くにせよ、時間の猶予はあまりないと考えるべきだ。浅見萌愛の行方不明者届を受けた警察が事件性を認め、緊急配備を敷くことも想定した方がいい。一刻も早くここを離れるべきだ。

 鴇田は、萌愛のスマホからインスタブックのアプリと、LINEからトキオのアカウントを削除し──後藤みくるがインスタブックのことを知っていて、警察に話せばまったく無意味だが、そうせずにはいられなかった──萌愛のスマホの電源を落とした。

 ①について即断しなくては。選択は二つ。車に乗せたままここを離れるか、ここで捨てるか。死体を乗せたまま検問や覆面パトカーに捕まったらアウトだ。今すぐということはないだろう。だが何時間後までなら平気なのか。その時点で安全な場所まで行けるのか。不確定要素が多すぎる。

 おそらく実際には緊急配備の網が敷かれる前に圏外へ脱することは可能だろう。だがそれで問題が解決するわけではない。人気のない、すぐには発見されない場所へたどり着き、野生動物に掘り返されたりしないよう、深く穴を掘り死体を埋めるという大仕事が控えている。しかしそれで萌愛の失踪への捜査を未然に防げるというならまだしも、大々的な捜索が見込まれる以上、リスクにメリットが見合っていない。

 ここで捨てる、が答えだ。

 となれば問題になるのは遺留物だ。萌愛の死体には、精子や唾液など、DNA鑑定で鴇田を特定できる遺留物がそこら中に付着している。そのまま遺棄するのは有罪にしてくれとお願いするようなものだ。

 
里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

◎編集者コラム◎ 『ランナウェイ』著/ハーラン・コーベン 訳/田口俊樹 訳/大谷瑠璃子
◎編集者コラム◎ 『余命3000文字』村崎羯諦