◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第121回

絵里香を犯し殺害した鴇田は後処理にとりかかる。その「最後の仕上げ」は?
その試合から九日後、鴇田は星栄中ソフトボール部7番の彼女──死体発見後の報道で綿貫絵里香(わたぬきえりか)という名を知った──を犯した上で殺害した。
試合の翌日から、会員となったカーシェアリングの車を毎回変えて星栄中を見張り、彼女を尾行して自宅と通学ルート、毎日の行動パターンを観察し、計画を立てた。
平日。ソフトボール部の練習が五時半に終わると、着替えた彼女は部活の仲間数人と一緒に学校を出る。荒川の南側に位置する私立星栄中から、足立区の南東部にある彼女の自宅──地主が多く住む地区で、彼女の家は両親が所有するマンションの最上階だ──まで、絵里香は十五分ほどかけて自転車で通う。やはり自転車通学をする仲間一人と途中で別れてからは一人だ。人通りも街灯も少なく、防犯カメラもない住宅街を通る。
二月二十日。鴇田はその住宅街の一角、一方通行の道の路肩にネオエースを停め、絵里香を待ち伏せた。車の陰に身を潜め、絵里香の自転車が見えると飛び出し、横ざまにタックルを浴びせて転倒させた。ガシャンという音、驚きと苦痛による絵里香の悲鳴。鴇田は倒れた絵里香に駆け寄ると、制服の襟元を右手でつかみ、恐怖におののく美しい顔の顎を左拳で殴った。絵里香が気絶し、がくっとうなだれる。スライドドアを開け、自転車と絵里香と彼女のリュックをフラットベッドにしたキャビンに運び込む。用意してあったダクトテープで彼女の口をふさぎ、両手首を縛ると運転席に乗り込んで車を出す。
誰にも見られていない。
鴇田はネオエースで荒川河川敷へ向かった。三日前、あの車止めゲートの南京錠が手持ちの鍵で開くことを確認してある。萌愛の事件のあとも交換されていなかったのだ。
鴇田は萌愛を殺したあの場所に車を停めるとキャビンへ移動した。制服のスカートをめくり、ショーツを脱がせている途中で絵里香が目を覚まし、パニック状態になって暴れた。鴇田はサバイバルナイフを見せた。
「暴れたら殺す。おとなしくしろ。抵抗しなければ殺さない。わかったか?」
目を見開いた絵里香は、ダクトテープの下から「ううん、うううん」という泣き声のような声を出し、涙を流しながら何度もうなずいた。