◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第123回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第123回
第七章──焦点 02
綿貫絵里香の事件についても、田口の態度は終始冷ややかなままで……。

 綿貫絵里香の事件についても、検察官証明予定事実記載書に書かれていた証拠は、主に六つに分類できる。

 
①死体遺棄現場に残されていた煙草の吸い殻のDNA鑑定書及び増山のDNA鑑定書、さらに、吸い殻に付着していた血液のDNA鑑定書及び被害者のDNA鑑定書
②増山の供述調書及び取調べ録画映像
③実況見分調書及び引当捜査報告書
④星栄(せいえい)中学校でのソフトボールの試合の録画映像
⑤増山及び綿貫絵里香の携帯キャリアの電波状況に関する報告書
⑥増山が十六年前、星栄中学校に侵入して逮捕された際の警察及び検察の記録
 

 綿貫絵里香の遺体のすぐ近くに、彼女の血が付着した煙草の吸い殻が二本、落ちていた。その吸い殻から検出されたDNAは、増山のDNAとほぼ一致する。このことから増山の有罪を証明するとしたものが①だ。

 増山が警察官や検察官に強要され、耐え切れず、自分が犯人だという虚偽自白をしてしまった部分の供述調書や取調べ録画映像を、増山が犯人である証拠として示すというのが②。

 ③はその延長で、増山が、死体遺棄現場へ連れて行かれ、取調官に対し、彼らに誘導されるまま死体遺棄について虚偽の自白をした供述を証拠としようとするものだ。

 ④は、増山と被害者である綿貫絵里香との接点を証明しようとするもの。生前の被害者が出場したソフトボールの試合を、増山がグラウンドの外から見ていたことが記録されている映像を証拠とする。

 検察官の主張を読んでいる間ずっと、志鶴は歯がゆい思いだった。ソフトボールの試合を記録した映像には、増山だけでなく、グラウンドの外に停車した白いバンが映っている。後藤みくるは、生前の浅見萌愛から、トキオが「大っきな車」に乗っていると聞いていた。

 この白いバン──トミタのネオエース──の運転席に座っていたのが、トキオである可能性は低くない。浅見萌愛は後藤みくるに、トキオの髪型を「チョンマゲ」だと語った。ネオエースの運転手をウィンドウごしに見た増山も「ヤカラっぽい」というその男性の髪型を「チョンマゲ」と志鶴に証言していた。

 もしそうだとすれば、増山が行っていないという死体遺棄現場で、彼のDNAが検出された煙草の吸い殻が発見された、今回の件での最大の謎についても説明がつくかもしれない。

「こっちもろくな証拠がないよなあ」と都築。「②はすでに、勾留理由開示期日でも証拠に残したように、捜査機関による虚偽自白の強要として任意性を争う。⑥は悪性格の立証で話にならん。⑤なんかお粗末極まりないよな。被害者のスマホのGPS情報を持ち出すのはいいとして、増山さんのスマホの位置情報を示す基準は、最寄りの基地局アンテナだってさ。半径何百メートルある? それで『同時刻に、犯行を行うに矛盾しないほど近くにいたことを証明する』って言われても困っちゃうよなあ。でもまあ、犯行に関する目撃証言や、有力な防犯カメラ映像がないことの裏返しとも考えられる」

「よくそんなに楽観できますね」田口が冷ややかな目を向けた。「①の現場に残されたDNAは極めて強力な証拠でしょう」

「そう思うかね、田口先生?」都築は挑戦的に目を光らせた。

 
里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

劇団四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」主要キャスト特別座談会〈新しい創造のかたち〉vol.3
〝おいしい〟のバトン no.5 SUSURU(ラーメンYouTuber)