◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第128回

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第七章──焦点 07
ソフトボールの試合を撮影した映像。トキオに迫る手がかりはそこに──

「漂白」目次


 

 ブルーレイディスクをトレイに載せデスクトップパソコンに挿入。息をこらして画面を見つめる。星栄中学校で行われたソフトボールの試合映像。三脚で固定されているらしきカメラは、ホームベースの背後からグラウンドを捉えている。映像は、後攻のチームが守備位置についたところから始まっていた。

 先攻チームのバッターが打席に立つと、審判の『プレイボール!』という声に続き、ピッチャーが第一球を投げた。

 志鶴が注視していたのは画面左手、三塁側ファウルラインに沿ったフェンスの向こう側だ。映像を三倍速で早送りする。何台かの車が道路を行き交ったのち、やがて、ターゲットの車が向こうから走ってきて通り過ぎ、画面から見えなくなった。通常速度に戻して巻き戻す。白いバン。トミタのネオエースだ。

 画面に入ってきたところからスロー再生する。運転席のフロントウィンドウごしに男性とおぼしきドライバー──映像を一時停止して目をこらした。面長の男性に見えるが、それ以上は距離と画素の限界もあって判然としない。ふたたびスロー再生。車は、画面の左手へと見えなくなった。その間ずっと、ナンバープレートはフェンス下部のブロックに隠れたままだった。

 ソフトボールの試合は、一時間半ほどで終わった。念のため最後までチェックしたが、向こうからこちらへ走ってきたネオエースはさっきの一台きり。ネオエースのしばらくあとに、やはり向こうからこちらへ向けて走ってくるスクーターが映っていた。

 ヘルメットをしていたが、体形などから、運転しているのは増山だとわかった。スクーターも画面の左手へ見えなくなった。ホームベースの斜め後ろに設置された固定カメラの映像では、増山も、白いバンもちゃんと確認することはできない。ネオエースと増山のスクーターは画面の外に停まっている。

 駄目だ。

 結局、ネオエースのナンバープレートを確認することはできなかった。

 ディスクを取り出し、別のものと入れ替えた。このディスクにコピーされているのは、同じ試合を別アングルから撮影した手持ちカメラの映像だ。こちらは固定カメラと異なり、試合を通して撮影していない。同じデータの中に何度も中断があり、場面が飛んでいた。星栄中の守備を中心に撮影しているようだ。カメラの位置はホームと一塁の間。同じように三倍速で再生していると、画面に突然ネオエースと、その前に停まったスクーター、そしてその傍らに、ヘルメットを脱いで立つ増山が出現した。再生を停め、巻き戻す。

 増山らが突然出現したように見えた理由がわかった。ネオエースも増山のスクーターも、星栄中学校の攻撃中に停車したので手持ちカメラが回っていなかったのだ。ニュース映像で使われ検察が請求した証拠は、この部分の映像だった。

 このイニング中に、増山は喫(す)い終えた煙草を一本捨てた。そのあとスリーアウトになり、映像が途切れた。次の部分が始まったとき、増山の姿は消えていた。ネオエースも。前のイニング、星栄中学校の攻撃中にその場を離れたに違いない。

 カウンターの時刻を見ながら映像を進めると、志鶴の推理は裏づけられた。くそ──現場を離れる前、トキオは増山が捨てた二本の吸い殻を拾ったはず。だが、その瞬間は記録に収められていなかった。ネオエースのナンバーが映っている映像もなし。トキオの顔もよくわからない。

 
里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

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